オペレーションF[フォース] (55)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第55回

執筆者:真山仁 2024年3月9日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】都倉の防衛大臣就任会見から呼び戻された草刈は、「第二のロッキード事件」の取材を命じられる。米国の軍事産業から、防衛省や政治家に賄賂が渡っているというのだ。

 

Episode6 一世一代

 

2(承前)

「それで、私に何を?」

 その問いに答えたのは、児玉だった。

「まず、舩井と仲良くなれ」

「都倉さんではなく、ですか」

「本丸は、舩井らしい」

 事実なら大スキャンダルだ。尤も、常にアメリカ寄りの発言や行動ばかりが目立った舩井なら、ありえそうだ。

「私は、舩井さんに取材した経験なんてありませんが」

「舩井は、大臣を辞めさせられたこと、さらには、先の潜水艦事故で、防衛出動しなかったことに怒り狂っているらしい。だから、想いの丈をウチの美人記者に語って欲しい、とオファーしたら、快諾されたよ」

 それは、セクハラではという言葉は呑み込んだ。舩井の女好きは有名で、取材を受けた女性記者を呑みに誘っていると、週刊誌にも書かれていた。

 だから、取材の後、呑みに誘われたら、喜んで行けということだ。

 嫌な仕事だが、仕方ない。

「で、仲良くなったとして、どうするんですか」

「奴が追い詰められた時に、一問一答がほしいだろ」

 政治家や疑惑の人を逮捕前に単独取材し、逮捕後に、紙面で詳報するのだ。それを、草刈にやれというのだ。

 そもそもそういう取材は、社会部の領域だった。

「無論、僕らがやれれば、やりたいんですが、社会部が行ってもおそらくは拒絶されるので」

 由利野は、取材を草刈に委ねるのが不本意だと隠そうともしない。

「それから、磯部と密に連絡を取って欲しい。彼の正義感を刺激して、アメリカの軍事メーカーから賄賂をもらった奴の特定に協力させろ」

「それは、無理だと思います。磯部さんは、正義感の強い方ですが、そんな裏切り行為に加担しません」

「本人に尋ねもしないで、断言するな。俺は、協力すると思っている」

 本当は草刈も、磯部は協力するかも知れないと思う。だが、新聞社の特ダネの道具にして、彼のキャリアを棒に振らせたくない。

 第2のロッキード事件――。

 その言葉が、既に草刈の頭の中で、暴れ回っている。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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