【前回まで】都倉の防衛大臣就任会見から呼び戻された草刈は、「第二のロッキード事件」の取材を命じられる。米国の軍事産業から、防衛省や政治家に賄賂が渡っているというのだ。
Episode6 一世一代
2(承前)
「それで、私に何を?」
その問いに答えたのは、児玉だった。
「まず、舩井と仲良くなれ」
「都倉さんではなく、ですか」
「本丸は、舩井らしい」
事実なら大スキャンダルだ。尤も、常にアメリカ寄りの発言や行動ばかりが目立った舩井なら、ありえそうだ。
「私は、舩井さんに取材した経験なんてありませんが」
「舩井は、大臣を辞めさせられたこと、さらには、先の潜水艦事故で、防衛出動しなかったことに怒り狂っているらしい。だから、想いの丈をウチの美人記者に語って欲しい、とオファーしたら、快諾されたよ」
それは、セクハラではという言葉は呑み込んだ。舩井の女好きは有名で、取材を受けた女性記者を呑みに誘っていると、週刊誌にも書かれていた。
だから、取材の後、呑みに誘われたら、喜んで行けということだ。
嫌な仕事だが、仕方ない。
「で、仲良くなったとして、どうするんですか」
「奴が追い詰められた時に、一問一答がほしいだろ」
政治家や疑惑の人を逮捕前に単独取材し、逮捕後に、紙面で詳報するのだ。それを、草刈にやれというのだ。
そもそもそういう取材は、社会部の領域だった。
「無論、僕らがやれれば、やりたいんですが、社会部が行ってもおそらくは拒絶されるので」
由利野は、取材を草刈に委ねるのが不本意だと隠そうともしない。
「それから、磯部と密に連絡を取って欲しい。彼の正義感を刺激して、アメリカの軍事メーカーから賄賂をもらった奴の特定に協力させろ」
「それは、無理だと思います。磯部さんは、正義感の強い方ですが、そんな裏切り行為に加担しません」
「本人に尋ねもしないで、断言するな。俺は、協力すると思っている」
本当は草刈も、磯部は協力するかも知れないと思う。だが、新聞社の特ダネの道具にして、彼のキャリアを棒に振らせたくない。
第2のロッキード事件――。
その言葉が、既に草刈の頭の中で、暴れ回っている。……
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