岸田総理「安倍派切り」の大チャンスは「森に嫌われた男」下村博文の爆弾発言?

執筆者:永田象山 2024年3月14日
タグ: 岸田文雄
エリア: アジア
森喜朗元総理から徹底的に嫌われて排除されてきた下村博文元文科相が逆襲に踏み切るのか[衆院本会議に向かう下村氏=2024年2月20日](C)時事
裏金問題を巡る政治倫理審査会に青年局長らの辞任も重なり、自民党と内閣の支持率低下が止まらない。政倫審に出席した安倍派幹部らの証言は食い違いが目立ち、さらなるキーマンとして下村博文元文科相の出席も確定した。だがこの惨憺たる現状は、9月の総裁選で再選を狙う総理にとって解散総選挙で起死回生を狙う「追い風」とも囁かれる。

 派閥の裏金事件で揺れる自民党にさらに追い打ちをかける「事件」が発生した。

 3月8日夜、まだ寒さが厳しい岩手県奥州市で2人の若い自民党議員がカメラの砲列の前に立たされた。

「この会合によって自民党の信頼も損ねた。このことについては最終的に青年局長である私が青年局長を辞任すると言う判断をした」(藤原青年局長)

 自民党の藤原崇青年局長(40)と中曽根康隆青年局長代理(42)の2人の辞任会見だ。

「メルトダウンが始まった」

 事の発端は去年11月に和歌山県で行われた「自民党青年局近畿ブロック会議」の懇親会だ。

 主催した自民党和歌山県連が下着と見間違うような衣装をまとった複数の女性ダンサーを会場に招いていたことが8日の産経新聞のネット版で報じられた。産経新聞が入手した画像ではダンサーに口移しでチップを渡す様子も映し出されていて、尋常ではない雰囲気が伝わってくる。懇親会には近畿地方の国会議員や地方議員の他、来賓として自民党の青年局所属の議員も多数参加していた。

 去年11月と言えばすでに裏金事件が表面化していた時期だ。青年局は藤原局長や中曽根局長代理らが今年1月に岸田文雄総理や茂木敏充幹事長らに申し入れを行い、政治資金規正法や公職選挙法を改正して「政治とカネ」にまみれた党の体質を改めるよう要請を行ったばかりだった。

 和歌山県連の主催とはいえ、党の青年局幹部が同席していたことに自民党執行部は危機感を強めた。「はやく出血を止めなければ彼らの政治生命が危うくなる」(自民幹部)

 報道から数時間後、党が下した判断は参加した青年局長と局長代理の2人の更迭だった。

「党がおかしくなっている時に本来真っ先に声をあげなければいけないのが若手たちなんだが、それがこのざまだ」(自民関係者)

 自民党青年局と言えばかつては岸田総理や麻生太郎副総裁が局長を務めた党幹部への登竜門だ。党のホープが集まるはずの青年局を巻き込んだ醜聞に自民党内からは「スキャンダルが立て続けに出てきている。(政権から転落した)麻生政権の時に状況が似てきた。いよいよメルトダウンが始まった」と危機感が高まった。

キックバック継続を誰がいつ決めたのか

 一方、岸田総理は依然、裏金問題で苦しんでいる。

岸田総理「政倫審については与野党で公開か公開でないかで折り合いがついていない」「与野党の駆け引きの中で開催の見通しがつかない極めて残念なこと」(2月28日)

 公開か非公開かで揉めに揉めた衆議院での政治倫理審査会(政倫審)は、岸田総理の「捨て身」とも言える賭けが功を奏し、安倍派・二階派幹部計5人をいずれも完全公開の形で実施された。

 しかし政倫審は雲をつかむようなやりとりに終始した。特に目立ったのは安倍派幹部4人の答弁の食い違いだ。

西村康稔議員「安倍会長が、22年の4月に現金での還付をやめるということを言われまして、私もこれはやめようということで、幹部でその方針を決めまして」

「その後、安倍総理が亡くなられて……多く売った議員が(キックバックを)返してほしいという声が出てきました。8月上旬に幹部で議論し……いろいろな意見はありましたが結論は出ず……」(3月1日政倫審)

 安倍派幹部のうち最初に答弁に立った前経産大臣の西村康稔衆院議員は2年前の2022年にキックバックを巡る2つの重要な会議があったと告白した。

 ひとつは安倍晋三元総理が現金でのキックバックを止めることを決めた4月の会議。そしてもうひとつは、安倍元総理が銃撃事件で死去した後に開かれたキックバックの扱いをどうするか話し合ったとされる8月の会議だ。

 そこにはいずれも西村、塩谷立(りゅう)、下村博文、世耕弘成の派閥幹部が同席していたと西村氏は証言する。しかし、自分は8月に経済産業大臣になり派閥の事務総長をやめたので、その後は「還付の話、資金の話は一切していない」と語り、キックバックを復活させる方針決定に自分は関与していないことを強調した。

 しかし、派閥の座長を務める塩谷立衆院議員は西村 の証言を否定し、2度目の会合でキックバックの継続を決めたと訴えた。

塩谷立議員「(キックバック)継続でしょうがないかなという、そのぐらいの話合いの中で、継続になったと理解している」(3月1日政倫審)

 西村の後に安倍派事務総長となった高木毅前党国会対策委員長に至っては、迷走した答弁を繰り返した。

野党議員「8月の会議について塩谷議員と西村議員は違う説明をしています……どっちが正しいんですか」

高木毅議員「もしそういう会合があったとしてもそこには出ておりませんし、それがいろいろ変わったというところに一切関係をしておりません」(3月1日政倫審)

 高木は、キックバックをやはり継続するという決定を聞いたのはその年の11月だと強調して、自分はこの決定にはあずかっていないと強調した。

 与党関係者は、政倫審に出席した5人の派閥幹部の中で、マスコミに公開する形の完全公開に難色を示していたのは高木だと指摘する。ここまで頑強に否定するというのは何か語れないことがあるのではないかと憶測が飛び交っている。

カネの面倒を見たのは森喜朗だけ

 安倍派幹部のやりとりを聞いていて思い起こされるのが、有名なゲーム理論「囚人のジレンマ」だ。これは共通の利害がある2人の囚人が、それぞれ自分の最大利益を考えた結果、2人で協力した場合よりも悪い状態に陥ってしまうことをさす。

 安倍派幹部たちは自分に降りかかる火の粉を振り払おうとするばかりに主張の齟齬や矛盾を露呈させてしまった。そのため「何かやましいことを隠している」という全体の悪い印象が強まってしまった。

 完全公開の政倫審を開いたにもかかわらず、各社世論調査をみると安倍派幹部らの説明に大半は納得しておらず、世論の怒りの火に油を注ぐ結果となった。

「自分は関係ない」と言い張る安倍派幹部たち。それでは誰が実態を把握しているのか。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
永田象山(ながたしょうざん) 政治ジャーナリスト
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