「離党勧告」「非公認」で解散か 岸田vs.安倍派・二階派の“最終戦争”が始まった

執筆者:永田象山 2024年3月22日
タグ: 岸田文雄 日本
エリア: アジア
どこかよそよそしくも見えた森氏への態度は、岸田首相が安倍派との縁を“カット”する予兆だったのだろうか[石川県アンテナショップの開店記念式典でテープカットする同県の馳浩知事(中央)、岸田文雄首相(右)、森喜朗元首相(左)=3月9日午前、東京都中央区](C)時事
政倫審は注目された下村元文科相の「爆弾発言」もなく幕を閉じる。世論は自民党に失望し、一部の調査では立憲民主党支持が自民党を上回った。岸田総理は党内の声を背に、安倍派・二階派の幹部らに対する「離党勧告」「選挙での非公認」を含む厳しい処分を検討している。9月の総裁選で再選するには、秋までに解散総選挙に打って出て勝利する必要があり、裏金問題に揺れる安倍派がその障害になるからだ。

 前回の拙稿『岸田総理「安倍派切り」の大チャンスは「森に嫌われた男」下村博文の爆弾発言?』(3月14日)で筆者は、政治倫理審査会(政倫審)などで揺さぶられる安倍派の混乱は支持率低迷に苦しむ岸田文雄総理にとって逆転のチャンスになり得る、森喜朗元総理と顔を合わせたイベントでの岸田の素っ気ない態度が今後の対応を暗示しているのではないか、と提起した。あれから1週間あまりが経過したが、事態は確実に、筆者が予想する最終局面へ向かっていると感じている。

 注目された下村博文元文部科学大臣の政倫審での弁明は3月18日に行われたが、結果から言えば「不発」に終わった。安倍派に影響力を持つ森元総理から徹底的に排除され恨みを持つ下村は、森の裏金への関与について「爆弾発言」するのではという見方もあった。

 立憲民主・寺田学議員「森(元)会長は、安倍さんが亡くなられた後、派閥運営に対して大きな影響力を持っていたのではないか」

下村「全くそのことについては、私自身は承知しておりません」

 森の関わりについては何も答えなかった。

「下村さんは森さんを本当に憎んでいるが、これからも自民党で選挙を戦うつもりなら多くを敵に回すようなことは言えないよ」(自民党議員)

「断固とした処分」への引き金を引いた世耕発言

 キーマンの沈黙で安倍派の裏金問題は暗礁に乗り上げるかと思いきや、事態は予想に反して動き出した。引き金を引いたのは、下村よりも先に政倫審に臨んだ世耕弘成前自民党参院幹事長だ。

世耕「刑事的に私は不起訴、嫌疑なしですから、真っ白なわけであります」(参院政倫審)

 世耕の答弁は自己弁護に終始したものだった。

 2022年4月に安倍晋三元総理が「キックバックを止める」と決定したにもかかわらず、安倍が死去した後、幹部らがキックバックの再開を決めた。誰がその決定に関わったかは大きな焦点だが、世耕はその問いに対しても当事者意識の欠如した答弁を繰り返した。

世耕「誰がこんなことを決めたのかというのは、本当に私自身、はっきり言って知りたいという思いであります」(参院政倫審)

 資金の問題については全く関与していなかったと、「開き直り」とも取れる世耕の態度は野党だけでなく身内の自民党内の怒りも買った。

「世耕さんのあれはないよ。何のために政倫審に出てきたんだ」(自民党関係者)

 政倫審で自民党を代表して質問に立った佐藤正久議員も「逆に疑惑が深まった」と不満を隠さない。公明党の石井啓一幹事長も世耕発言を念頭に会見で「無責任のそしりは免れない」と公然と批判した。

 世耕の発言が与党内の安倍派幹部らへの見方を決定づけたとみる党関係者は多い。つまり「もう安倍派には任せておけない。断固とした処分を」という空気感が一気に広がったのだ。世耕ら参院の安倍派議員(ほかに西田昌司議員、橋本聖子議員)の政倫審が行われた3月14日夕方。自民党本部では重要な会合が開かれていた。

「安倍派・二階派の幹部に対してはしっかりと厳しい処分を下してもらわないと困ります」

 裏金事件をきっかけに再発防止策などを検討するため立ち上げられた自民党政治刷新本部の全体会合。出席した中堅・若手議員からは、雛壇に並ぶ岸田総裁、麻生太郎副総裁ら執行部に対して安倍派幹部らへの厳罰を求める声が集中した。参加者によれば「離党勧告」や「選挙における非公認」を求める声が多かったという。

聴取の対象者には森喜朗も含まれる

 また、会合ではもう一つの「要求」が突き付けられた。

「森さんに話を聞くことはできないのでしょうか」

 安倍派裏金に関する森元総理への聴取だ。

 会合の出席者によると、岸田は「具体名は出せないが、実態解明のために関係者の声を直接聞くことについて、検討したい」と、森への聴取に意欲を示したという。

 さらに翌日の国会でも岸田は森への聴取を強く迫られた。

 共産党の小池晃書記局長が「森元首相の国会招致」を求めたのに対して、岸田は下村の政倫審の弁明などを踏まえて検討する考えを示した。

 しかしその答弁では満足しない小池はさらにたたみかけた。

小池「森さんが焦点になっている。森元首相も含まれると明言してもらいたい」

岸田「関係者の中に、森元総理も入ると認識をしている。その上で対応を判断したい」

 小池議員に押し切られた形とは言え、岸田ははっきりと「聴取の対象者に森元総理も含まれる」と国会で公言した。この発言は自民党内でも驚きをもって受け止められた。

 さらに処分の問題についても岸田は重い腰を上げた。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
永田象山(ながたしょうざん) 政治ジャーナリスト
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