クライストチャーチまで、「ウチの娘」の死に顔をせめて綺麗に拭いてやりたいと願って行った富山県の親たち。山のような瓦礫の下敷きになり、「おかーさん」と呼ぶ間もなく短い命を絶たれた娘。親と子は生死の挨拶をすることすらできず、かつて語学学校だった穴の前を徐行するバスの窓から、無言のうちに別れた。 我が子に、かけてやりたいと思っていた別れの言葉を呑み込み、無言の親たちは空手で帰らねばならなかった。箸が転んでも笑う年頃だった。親と子のこれほどむごい別離を聞いて、私は瞑目したが、言うべき言葉がなかった。何という無慈悲か。神を恨むだけだった。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン