英独「最良の敵同士」の新たな関係

Foresight World Watcher's 4 Tips

まずは安全保障での連携が前面に出たが、友好条約の対象分野は幅広い[エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社の工場で記者会見を開いたスターマー英首相(左)とメルツ独首相(右)=2025年7月17日、イギリス・ロンドン近郊のハートフォードシャー州](C)EPA=時事

 国際社会に大騒動を巻き起こしてきたトランプ関税問題がひとつの区切りを迎える傍らで、欧州や中東、そしてインドと中国の関係には注目すべき動きが起きています。

 英独間で戦後初の2国間条約となる「ケンジントン条約」が署名され、仏英(そしてカナダ)はパレスチナを国家承認する方針を発表しました。インド太平洋の重要な要であるはずのモディ印政権に対し、米国は関税交渉で厳しい条件を突き付けて譲らず、その軋みを睨むかのように中国はインドへの挑発的行為を重ねています。

 いずれも「アメリカ・ファースト」と軌を一にして高まる各地域の秩序再構築の動きと言えそうですが、その波紋はどこまで広がって行くものなのか。フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事4本、皆様もよろしければご一緒に。

Britain and Germany sign a historic treaty【Economist/7月17日付】

 英国のEU(欧州連合)離脱、第1次トランプ政権による米国外交の見直し、バイデン政権による揺り戻し、中国の戦狼外交の顕在化、ロシアのウクライナ侵攻、そしてトランプ政権の復活……。こうした流れを経て今、大きく変動している欧州において、英国とドイツの両首脳が署名した友好条約の締結もまた、ひとつの大きな節目となった。

 独フリードリッヒ・メルツ首相は英キア・スターマー首相との共同記者会見で「安全保障はこの条約の軸」と述べ、日本の報道も両国の相互防衛に焦点が当てられることが多かったが、この「友好・二国間協力条約(Friendship and Bilateral Cooperation Treaty)」の対象分野は次のように17もあり、幅広い。

1. ウクライナの回復と再建

2. トリニティ・ハウス防衛協定(2024年に英独で結んだ防衛協力協定)

3. 防衛産業・輸出協力の強化

4. 不法移民対策の共同行動計画

5. 戦略的科学・技術パートナーシップ

6. 北海エネルギー・インフラ・プロジェクト

7. 英独間の新鉄道リンクの共同タスクフォース

8. Eゲート(両国間の旅行の円滑化)

9. 学生の旅行と市民の移動

10. 産業界・政府フォーラム

11. 戦略的紛争防止・安定化パートナーシップ

12. 西バルカン諸国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)の安定と安全保障

13. インド太平洋地域での協力

14. バイオセキュリティ協力

15. 戦略的サステナブル開発パートナーシップ

16. 教育、文化、スポーツ

17. KfW(ドイツ復興金融公庫)と英公営金融機関とのコラボレーション

 この条約について、英「エコノミスト」誌は締結当日の7月17日付「英国とドイツ、歴史的条約に署名」で、次のように分析している(雑誌版のタイトルは「最良の敵同士(Best of enemies)」)。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top