金正日総書記の死後、慎重な対応で口をつぐむ米国とは対照的に、自信さえうかがえる中国の強い態度が際立っている。
北朝鮮側から中国への総書記の死亡伝達が、17日の死後の早い段階に行なわれたのは確実だ。
19日の発表前、北朝鮮人民軍だけでなく中国人民解放軍も警戒態勢に入った、と伝えられている。米保守系紙ワシントン・タイムズによると、「中朝国境地帯の住民」からのインターネットへの情報提供でそうした緊迫した状況が伝えられた。この記事の筆者、ビル・ガーツ記者は米情報機関およびペンタゴンに情報源を持つことで知られているが、情報を伝えた「住民」に関する詳しい情報は明らかにされていない。
それによると、瀋陽軍区は高度の警戒態勢に入り、北朝鮮国内における不測の事態に備えた。同軍区では第40集団軍、機械化部隊、第30航空師団が戦闘警戒態勢に入ったと言われる。海軍は北海艦隊要員の休暇が取り消された。在韓米軍が何らの指令も受けなかったのとは対照的だ。
他方外交面でも、張志軍外務次官が19日、6カ国協議に参加する日米韓ロ4カ国の駐中国大使らと個別に面談して、「朝鮮半島とその周辺地域の安定は中国の戦略的利益」と述べ、過剰反応を抑え、安定に協力するよう求めていた。共同通信が伝えた。張次官は「北朝鮮の内部は安定している」とも説明したという。
中国が今の時点でなぜ「戦略的利益」という言葉を用いたのか。理由は明らかではないが、金正恩氏への平和的な権力移行への支持を表明したとみていいだろう。
現時点では、金正日総書記が生前に中国に対して、自分の万一の場合に備えた対応策をめぐり、後事を託していたかどうかは速断できない。
しかし、中国側が野田佳彦首相との会談で「朝鮮半島の平和と安定は関係国の共通利益」(胡錦濤国家主席)、「朝鮮半島情勢の長期的安定を図りたい」(温家宝首相)と表明したことからも、当面金正恩後継体制を支持する方針であることがうかがえる。そもそも北朝鮮は存在自体が中国の国家的利益だが、不安定な体制は中国の国益とは言えない。唐家璇元国務委員(元外相)も20日、訪中した自民党の林芳正政調会長代理に、「中国の玄関口での混乱は断じて許さない」と警告している。
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