アネクドートの世界で筆者の恩師だった作家・ロシア語通訳の米原万里さんが亡くなられた。米原さんと会う時はいつも緊張した。鋭い感性、辛辣な直言、頭の回転の速さと記憶力で圧倒される上、おかしなことを話すと後で何を書かれるか分からないからだ。 米原さんが話していたロシア式アネクドートの真髄は、「視点を一挙に相手側にずらす」「悲劇も喜劇も紙一重」「木を見てから森を見せる」「権威を笑い飛ばす」だった。 下ネタ用語や罵倒表現を多用する強烈な作風だった。最初で最後の長編小説となった『オリガ・モリソヴナの反語法』では「去勢ブタはメスブタにまたがってから考える」という奇怪な表現を用いた。
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