北朝鮮「抑止」のための論点を整理する

執筆者:田中明彦 2006年9月号
エリア: アジア

 北朝鮮のミサイル発射からすでに一カ月以上がたち、イスラエルとヒズボラの戦争に国際社会の関心が移るなか、北朝鮮の問題への注目度がやや低下しているように思う。しかし、とりわけ日本にとっては、北朝鮮を取り巻く情勢は、決して楽観を許さない状況にある。北朝鮮のミサイル発射以後の事態を観察して、論点を整理しておく必要がある。 第一に確認すべきは、北朝鮮の弾道ミサイルの能力についてである。本稿執筆時には、まだ防衛庁のこの問題についての報告書は発表されていないが、少なくともスカッドとノドンの二種類のミサイルについては、相当精度が高いということがいえそうである。かりに北朝鮮が日本を攻撃目標にするとすれば、東京など大都市や米軍基地などの周辺への危険は極めて大きいということになる。通常弾頭であっても、直撃された箇所に大被害がでるであろう。大量破壊兵器(核、化学兵器、生物兵器)が搭載可能かどうかはわからないし、技術的には難しいのではないかと推測されるが、時間がたてばたつほど、搭載可能性は高まり、もし大量破壊兵器が搭載された時の被害は想像を絶する。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
田中明彦(たなかあきひこ) 1954年、埼玉県生まれ。東京大学教養学部卒業。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。東京大学東洋文化研究所教授、東京大学副学長、国際協力機構(JICA)理事長、政策研究大学院大学学長、三極委員会アジア太平洋地域議長などを経て、2022年4月より再び国際協力機構(JICA)理事長に就任。著書に『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(サントリー学芸賞受賞)、『ワード・ポリティクス―グローバリゼーションの中の日本外交』(読売・吉野作造賞)、『アジアのなかの日本』、『ポスト・クライシスの世界―新多極時代を動かすパワー原理』など。
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