[ジャカルタ発]六月のある早朝、ワユディン君(二六)はインドネシアの首都ジャカルタ近郊のパーキングエリアで、イスラム教徒へのお祈りの呼びかけ「アザーン」を聞いていた。「アッラーフ、アクバル」(神は偉大なり) 遠くのモスク(イスラム寺院)から拡声器を通じ、厳かな声が繰り返し流れている。時刻は午前四時半を回っているが、辺りはまだ真っ暗だ。気温は二十度を少し超える程度。しかし、熱帯特有の湿気のせいで、じっとしていても汗が滲むほどだ。 ワユディン君は五十人以上の仲間と一緒にパーキングエリアのトイレへと向かった。お祈りの前には手足を清める必要があるが、ここにはトイレ以外に水場はない。独特の甘い香りを放つインドネシアのタバコ「ガラム」と尿の臭いが混じり合うトイレへ入ると、ワユディン君は汗ばんだシャツを脱ぎ、頭から水をかぶり、そして祈った。

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