もはや大統領職はアメリカ国民にとって重要ではない[ワシントン発]十一月七日の大統領選投票日、アメリカの有権者はたしかに声をあげた。だが、その声が何を語ったのか、あるいは意味するところは何であったのか、未だ釈然としない。 勝者の決定が遅れるにつれ、首都ワシントンでは政治的な駆け引きが激しさを増している。だが対照的に、多くのアメリカ人は平静を保っている。これは、有権者自身が自国の進むべき方向について、はっきりした考えをもっていないことの反映ともいえる。 大統領選が史上稀にみる大接戦だったことから、アメリカが分裂していると見るのは早計だ。今は一九六八年とは違う。人種問題やベトナム戦争のような、世論を二分する争点はない。むしろ今回の接戦は、アメリカの現況があまりに良いことに起因するものだ。選挙で明らかになったのは、アメリカ人が現状に非常に満足しているという事実だ。人々は、かつてない繁栄と平和の時代に満足し、それゆえに政府の役割に無関心になっているのだ。

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