経済の頭で考えたこと (37)

米国復活遠し「国際政治のビジネス・モデル」が変わる

 ガイトナー米財務長官の辞任意思が明らかとなったのは、金融の量的緩和第2弾(QE2)が終了する直前の6月末であった。来年は年初から大統領予備選が開始される。オバマ大統領にとって、経済政策の効果を説明するスポークスマンが求められるにもかかわらず、その陣容も整わぬままになりそうだ。米国経済の動向は、大統領の支持率の揺らぎを通じて、米国の対外関与姿勢の更なる変化に直結することになろう。われわれ日本サイドにも、いくつかのシミュレーションを実施しておく必要が生まれてくる。

回復しない米住宅市況

経済が対外政策の手足を縛る(オバマ米大統領) (C)EPA=時事
経済が対外政策の手足を縛る(オバマ米大統領) (C)EPA=時事

 QE2は当初の目的を果すことができなかった。米国の景気指標は一進一退で定かな予想は簡単ではない。しかし明瞭な事実がある。住宅資産市場の底入れはいまだ確認できず、抵当権が設定されたまま没収された住宅が、底入れ気運が生まれると市場に放出されるという循環が続いている。今日になって誰しもが否定できない「証券化」の真実とは、住宅市場に渦巻きをつくって住宅抵当証券を束にして投資家に売りつける仕組みだったという点である。  抵当権付きの住宅向け融資は、当初の段階においては優良物件向けであった。もちろん一世代前とは優良度は異なっていた。1970年代においては、住宅取得にあたって家計はおよそ3分の1の頭金を用意したうえで、融資依頼を行なった。こうした時代にあっては、住宅融資の借り手は、多少の生活上の困窮が襲来しても、返済の努力を怠らなかった。住宅資産価格の上昇が予想されていたし、いわゆる中産階級の人々にとって、自己破産を宣言して信用社会の外に出ることは何としても回避したかったからである。貸し手の側から見れば、小口の住宅融資は優良貸出しの積み上げに他ならなかったのである。  歴史的に見ると、こうした情勢に基本的な変更が加わったのは、米国における「シビル・ソサエティ」づくりの動きが住宅融資にも反映したという事情がある。1960年代における公民権法案の制定をめぐる盛り上がりは、米国のマイノリティ(ブラック・ピープル)の社会的地位の引き上げ運動に結びついた。個々の銀行の貸し金についても「経済的」な問題とは別に、あえていえば社会的考察が不可欠となったのだ。たとえばスラム・クリアランス(スラム地区解消)のプロジェクトへの投融資を頭からはねつけることはできなくなった。そして個々の融資案件の組成に対しても、マイノリティ向けを別途表記することが不可欠となる情勢が押し寄せた。同様の動きは米国議会にも波及し、住宅ローンの頭金比率を低下させる法案が相次いだ。日本でいう国会内の金融委員会が、米国では「銀行、住宅、都市」委員会になったのには以上のような事情があった。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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