国際人のための日本古代史 (11)

大伴家持「正月の歌」の読み方

執筆者:関裕二 2011年1月4日
タグ: 日本

 正月になると、つい思いだしてしまう万葉歌がある。

新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事(よごと)

「初春の今日、この降る雪のように、良いことよ、いっぱい積もっておくれ……」と、大伴家持(やかもち)が詠んだ、正月らしいめでたい歌である。
 ただこの歌、ちょっと奇妙なのだ。20巻ある『万葉集』の最終巻の最後の歌だからである。なぜ『万葉集』の編者(大伴家持も編纂に加わっていた可能性がある)は、最後の最後に、正月の歌をもってくる必要があったのか、多くの万葉学者が首をひねる。
 奇妙な万葉歌と言えば、家持の父・旅人(たびと)も、不思議な歌を残している。それは巻3―338~350の13首で、すべて酒を讃美する歌なのだ。たとえ酒が好きだとしても、ちょっと度を超している。アル中ではないかと思えるほど、酒浸りなのだ。たとえば次の2首は、高級官僚が詠んだ歌とは思えない。

賢(さか)しみと 物言ふよりは 酒飲みて 酔ひ泣きするし まさりたるらし
(賢そうに物を言うよりは、酒を飲んで酔い、泣いた方が勝っている)

なかなかに 人とあらずは 酒壺に なりにてしかも 酒に染(し)みなむ
(中途半端に人間でいるよりも、いっそのこと酒壺になってしまいたい。酒に浸りたい)

 さらに、「酔って泣いているのは悪くない」「今さえ楽しければ、来世は虫や鳥になっても良い」「酒を飲んで憂さを晴らしてなにが悪い」とやけくそ気味な歌が並ぶのである。いったいこれはどうしたことであろう。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
関裕二(せきゆうじ) 1959年千葉県生れ。仏教美術に魅せられ日本古代史を研究。武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。著書に『藤原氏の正体』『蘇我氏の正体』『物部氏の正体』、『「死の国」熊野と巡礼の道 古代史謎解き紀行』『「始まりの国」淡路と「陰の王国」大阪 古代史謎解き紀行』『「大乱の都」京都争奪 古代史謎解き紀行』『神武天皇 vs. 卑弥呼 ヤマト建国を推理する』など多数。最新刊は『古代史の正体 縄文から平安まで』。
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