正月になると、つい思いだしてしまう万葉歌がある。
新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事(よごと)
「初春の今日、この降る雪のように、良いことよ、いっぱい積もっておくれ……」と、大伴家持(やかもち)が詠んだ、正月らしいめでたい歌である。
ただこの歌、ちょっと奇妙なのだ。20巻ある『万葉集』の最終巻の最後の歌だからである。なぜ『万葉集』の編者(大伴家持も編纂に加わっていた可能性がある)は、最後の最後に、正月の歌をもってくる必要があったのか、多くの万葉学者が首をひねる。
奇妙な万葉歌と言えば、家持の父・旅人(たびと)も、不思議な歌を残している。それは巻3―338~350の13首で、すべて酒を讃美する歌なのだ。たとえ酒が好きだとしても、ちょっと度を超している。アル中ではないかと思えるほど、酒浸りなのだ。たとえば次の2首は、高級官僚が詠んだ歌とは思えない。
賢(さか)しみと 物言ふよりは 酒飲みて 酔ひ泣きするし まさりたるらし
(賢そうに物を言うよりは、酒を飲んで酔い、泣いた方が勝っている)
なかなかに 人とあらずは 酒壺に なりにてしかも 酒に染(し)みなむ
(中途半端に人間でいるよりも、いっそのこと酒壺になってしまいたい。酒に浸りたい)
さらに、「酔って泣いているのは悪くない」「今さえ楽しければ、来世は虫や鳥になっても良い」「酒を飲んで憂さを晴らしてなにが悪い」とやけくそ気味な歌が並ぶのである。いったいこれはどうしたことであろう。

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