増税の前にムダ削減はできるか? 朝霞国家公務員宿舎を巡る議論

執筆者:原英史 2011年9月19日
カテゴリ: 政治
エリア: アジア

 復興増税に向けた議論が急ピッチに進んでいる。だが、増税の前に本来なされるべき、ムダ削減や資産売却による財源確保は、どうなっているのか?

 
野田内閣は残念ながら、スタート時点から、その姿勢が疑われている。
9月1日の朝霞国家公務員宿舎の着工問題のためだ。
 
国家公務員宿舎の建設事業は、政権発足直後の事業仕分けで取り上げられ、当時の枝野仕分け人(現・経済産業大臣)らの判定により、すでにスタートしていた朝霞宿舎も含め、「凍結」とされた。
ところが、その後、国有財産を管理する財務省で再検討がなされ、結局、朝霞など数件は工事再開が決定。財務大臣であった野田総理のもとでゴーサインが出され、政権発足直前、着工に至った。
 
朝霞宿舎の建設事業そのものは100億円程度。その中止で巨額な復興財源が生まれるわけではない。
だが、これは、いわば象徴事案だ。つまり、「徹底したムダ削減からスタートするのか否か」、さらには、「国民のための事業と公務員のための事業のどちらを優先するのか」という政権の姿勢が問われているのである。
 
先週の衆議院本会議の代表質問で、野田総理は、早速この問題を追及され、以下の趣旨の答弁で、「朝霞再開」の立場を守った。
・「公務員宿舎は、5年で15%強、3.7万戸削減する」
・「朝霞については、真に必要な宿舎として、再開を決定した」
・「不要な宿舎の跡地は売却するので、復興財源にもなる」
 
だが、まず、「5年で15%強削減」というのは何なのか。
これは、財務省での検討の結果とりまとめられた「国有財産行政におけるPRE戦略」(2010年12月)に出てくる数字。「真に必要な宿舎」を精査した結果、「現在の21.8万戸を、5年で18.1万戸に」と決めたのだという。
だが、総数約60万人の国家公務員(自衛官など特別職約30万人を含め)に対し、それだけの数の専用住居を用意しなければならない必然性があるとは考えづらい。
極端に転勤が多い職種、深夜・早朝の緊急対応が必要なポストなど、専用住居がどうしても必要なケースは中にはあるのだろうが、それが全国家公務員の3分の1を占めることはないだろう。
「真に必要な宿舎」は、本当に精査すれば、全くケタが違う数字のはずだ。
 
「古い宿舎の跡地を売却するので、復興財源になる」というのも、詭弁と言わざるを得ない。売却だけして、建て替えをしなければ、より大きな財源が生まれることは言うまでもない。
 
かつて枝野仕分け人は、事業仕分けの場で、「(公務員宿舎を)なぜやめないんですか。なぜ壊した分、別のところに作らないといけないんですか。・・・国家公務員法か何かに宿舎を提供しなければならないと決まっているんですか」と追及していた(2009年11月27日事業仕分け議事録より)。
もっともな指摘だ。こうした正論を政策で具現化できるかどうかが問われている。
 
(原 英史)
 
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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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