「王羲之の書の写本が見つかりました」。新年を迎えて数日たった日、NHKの9時のニュースが報じたとき、「うわさは本当だった」と思った。東京国立博物館でいま開かれている特別展「書聖 王羲之」で王羲之にまつわる新しい発見が明らかにされるといううわさは、11月ぐらいから耳にしていたが、真偽のほどはつかめなかった。
書聖と呼ばれる王羲之は書道史上最大の巨人である。しかし、真跡は一枚も残っていない。ほぼ正確に字姿をいまに伝えるのは、専門の書家が作成した「摹本」と呼ばれる精巧な写本しかない。かつて清の乾隆帝が「天下無双」とほめたたえ、作品の中に「神」と書き込んでしまった台北故宮所蔵の「快雪時晴帖」も極めて精巧な写本である。

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