逆張りの思考

「住みやすさ」とは何か

執筆者:成毛眞 2016年9月22日
カテゴリ: 経済・ビジネス 社会
エリア: アジア

  東洋経済新報社は毎年、全国の都市を対象に「住みよさランキング」の調査を行っているが、2012年から5年連続で同じ街がトップに君臨し続けている。千葉県印西市だ。
 千葉県北部に位置する印西市には、首都圏の大規模ニュータウンのひとつである千葉ニュータウンの一部がある。その千葉ニュータウンの開発が始まったのは1969年だから、もう50年近く前だ。それでも、今も人口の流入が続いている理由は、都心からそう遠くない立地であることに加え、少しずつ人を招き入れ、様々な世代が共存できるよううまく設計されているからだろう。エリア内には住宅街だけでなく、ショッピングモールや大手企業の研究所や大学、さらに大学病院もある。また、土地が平らで「歩きやすい」ことも、高齢者やベビーカーが欠かせない世代から評価されているようだ。
 住みやすいという評判が立てば、それを聞きつけてそこに住みたいと考える人が出てくるのも当然だ。もちろん、その逆もある。
 都市部では待機児童問題が深刻化している。保育環境の需給バランスが崩れていることが原因だ。この問題に悩まされている人は、自分の暮らす街を住みやすいとは感じないだろう。通勤時間が多少延びることになっても、待機児童のいない自治体へ移り住むという選択をする人も出てくるに違いない。孟母三遷(もうぼさんせん)という言葉があるが、子育て世代には、最大限のサービスを搾り取れる街を選んで住むくらいのしたたかさがあってもいいのではないかと思う。
 また、過去に「住みやすい」とされていた街がいつまでも住みやすいままとは限らない。千葉ニュータウンのように少しずつ成長している街は別として、人口が増えず雰囲気も硬化してしまっている街は、気付かぬうちに劣化していることもある。長い間、閑静な住宅街と言われてきた街で、最近、物騒な事件の話を聞くのはそのせいではないかと思う。一度選んだからといって安心してはならないのだ。街の住みやすさは、自分の変化や世の中の変化によって変わっていく。
 以前、NHKのクローズアップ現代で“空中族”を特集していた。これは、タワーマンションからタワーマンションへと移り住む人たちのことだ。購入して数年し、値上がりしたらそこを売ってまた別の、値上がりが見込めそうなマンションに住む。そして値上がりしたら……を繰り返すのだ。
 タワーマンションというと、投資目的で複数の物件を購入する人もいるようだが、よほど資金が潤沢な人でない限り、こうやってわらしべ長者のように、値上がりの可能性がある中古マンションを、ざっと5年単位で住み替えていくのが正しいと私は思う。

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執筆者プロフィール
成毛眞(なるけまこと) 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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