「経済安全保障」に欠けている「食料危機」という現実

執筆者:鈴木宣弘 2022年3月11日
エリア: アジア その他
岸田政権は経済安全保障を政策の柱の1つにしているが、食料への関心は…… (C)時事
「安全保障」が国民の生命財産を守ることならば、食料はまさに「いのち」にかかわる問題であるはずだが、「経済安全保障」の議論がこれを取り上げることはない。日本の食料は今、確実に危機的状況にあるのだが――。

 1月17日に行われた岸田文雄首相の施政方針演説では「経済安全保障」が語られたが、そこでは「食料安全保障」についての言及はなく、農業政策の目玉は“輸出促進とデジタル化(農業DX=デジタル・トランスフォーメーション、スマート農業)”が語られたのみだった。

「農産物輸出1兆円」の嘘

 食料や生産資材の高騰と、中国などにたいする「買い負け」(買値で他業者に負けて、買い付けができなくなること)が顕著になってきて、国民の食料確保や国内農業生産の継続に不安が高まっている。そんな今、前面に出てくるのが“輸出促進とデジタル化”とは、政府の危機認識力が欠如していると言わざるを得ない。

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執筆者プロフィール
鈴木宣弘(すずきのぶひろ) 東京大学大学院農学生命科学研究科教授。1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より現職。専門は農業経済学、国際貿易論。著書に『食の戦争』(文藝春秋、2013年)、『悪夢の食卓』(角川書店、2016年)、『農業消滅~農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書、2021年)、『貧困緩和の処方箋~開発経済学の再考』(筑波書房、2021年)、『協同組合と農業経済~共生システムの経済理論』(東京大学出版会、2022年)、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)など多数。
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