「日本の農業は過保護」という嘘

執筆者:鈴木宣弘 2022年12月19日
タグ: 日本 アメリカ
エリア: アジア 北米
食料安定供給・農林水産業基盤強化本部の会合で発言する岸田文雄首相。「生贄」としての農業から脱せるか (C)時事
TPPをはじめとする貿易自由化交渉の度に、農業部門の非効率性がやり玉に挙げられてきた。しかし日本の農産物関税率も、農業所得に占める補助金の割合も、国際的にはきわめて低いのが実態だ。世界の食料供給システムが混乱するいま、日本の食料安全保障を危機に晒している「自由貿易の優等生のフリ」という戦略なき思考停止を直視する必要がある。

貿易自由化の「生贄」にされてきた農業

 日本は、経済産業省などの主導のもと、長年にわたって自動車の輸出を推進してきた。そうして製造業で儲けるかわりに、自由貿易交渉においては、いわば「生贄」として農産物の関税撤廃を差し出す、という経済政策を進めてきた。「食料なんて金を出せば買える」という考え方が、あたかも正論のごとく唱えられた結果、日本国内での農業生産はないがしろにされてきた。

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執筆者プロフィール
鈴木宣弘(すずきのぶひろ) 東京大学大学院農学生命科学研究科教授。1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より現職。専門は農業経済学、国際貿易論。著書に『食の戦争』(文藝春秋、2013年)、『悪夢の食卓』(角川書店、2016年)、『農業消滅~農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書、2021年)、『貧困緩和の処方箋~開発経済学の再考』(筑波書房、2021年)、『協同組合と農業経済~共生システムの経済理論』(東京大学出版会、2022年)、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)など多数。
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