リーダーインタビュー・シリーズ (3)

【トップランナー】株式会社 新日本科学 代表取締役会長兼社長 永田良一

「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する」ことを使命に掲げる。

執筆者:フォーサイト編集部 2022年6月6日
タグ: マネジメント
 

【経歴】ながた・りょういち 1958年鹿児島市生まれ。83年聖マリアンナ医科大学卒、医師、医学博士(鹿児島大学)、密教学修士(高野山大学)。81年新日本科学非常勤取締役、91年社長、97年社長兼CEO、2014年から現職。

 新型コロナウイルスが依然として猛威を振るっている。医薬品試験受託大手の新日本科学は国内のワクチン開発の一部を担っているほか、経済産業省と東京証券取引所が共同で主催する「令和3年度なでしこ銘柄」に選定されるなど、女性活躍の推進も熱心だ。リーダーインタビュー・シリーズ「トップランナー」の第3回目は、同社の代表取締役会長兼社長の永田良一氏に聞いた。

Q. 新日本科学はどのような会社ですか。

 新日本科学は、「環境、生命、人材を大切にする会社」を企業理念とし、「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する」ことを使命に掲げるライフサイエンス企業です。具体的には、新薬開発を製薬会社から受託するCRO(Contract Research Organization)事業、自社開発やベンチャー企業をサポートするTR(Translational Research)事業、再生可能エネルギーを扱う発電事業、ウエルネスを目指すホテル事業、シラスウナギ人工種苗を研究する水産事業などがあります。今年、創業65周年を迎えます。

Q. 国内のワクチン開発や治療薬開発などに、どのように関わっているか教えてください。

 新薬開発は、基礎研究の前臨床試験段階から臨床試験段階まで10年以上の長い道のりが必要です。この間、“スピード”と“確実性”そして“経済合理性”のバランスをとることが重要です。近年、製薬企業では、豊富な経験と実績に裏付けされたCROに研究開発に必要な試験を委託するトレンドが強くなってきました。CROは確かな技術による質の高い評価系を構築し、豊富な人材リソースによりスピーディで効率的に試験を実施します。COVID-19のワクチンや治療薬もCROの協力なしでは開発できなかったでしょう。加えて、核酸医薬・抗体医薬など、新たな創薬モダリティの研究開発が本格化してきていますが、このような領域でも重要な役割を担っています。

Q. 国内のCOVID-19ワクチン開発の現状についてお話しください。

 現在、4種類のワクチンが承認され1種類が申請済です。また、6種類が開発中でブースター接種(3回目以降の接種)に狙いを定めています。mRNAワクチンの抗体陽性率はほぼ100%で、ウイルスの遺伝子配列さえ分かれば短期間で作れるため、他のウイルスワクチンでも今後は活用されるでしょう。しかし、パンデミックになっている変異株(オミクロン株)には現在のワクチンでは効果が不十分で、接種者が感染する「ブレークスルー感染」となっています。今後、気道局所でウイルス侵入をブロックできる経鼻投与型の粘膜ワクチンの実用化が期待されます。

Q. TR事業について教えてください。

 独自開発の経鼻投与基盤技術による薬剤の開発とライセンス導出を行っています。現在、ライセンス先であるSatsuma Pharmaceuticals(サンフランシスコ)では、経鼻偏頭痛薬の第3相臨床試験の最終段階にあり、近く米国FDA(米食品医薬品局)に承認申請予定です。また、パーキンソン病のレスキュー経鼻薬を子会社SNLDで開発しており、第1相臨床試験を実施しています。このほか、ベンチャー企業をサポートしており、東京大学発ベンチャーの「トランクソリュ-ション」や「医光ヘルステクノロジー」などの事業化を進めています。加えて、子会社Gemseki は、Webを通じて新薬の候補化合物を大手企業に紹介したり、資金助成(ファウンド支援)しています。

Q. 「なでしこ銘柄」に選定されるなど、女性活躍推進と健康経営に力を入れておられます。どのような成果がありましたか。

 15年以上前から女性の職場環境を改善してきました。その結果、社員の過半数が女性となり、女性管理職も増え、出産や育児で退職する女性はほとんどいなくなりました。また、女性が輝く先進企業表彰「内閣総理大臣表彰」、厚生労働大臣優良賞「均等・両立推進企業部門」、「鹿児島県女性活躍推進優良企業知事表彰」を受賞しました。今年は、女性活躍推進に優れた企業を対象にした経済産業省と東京証券取引所が共同で主催する「なでしこ銘柄」に選定され、健康経営の推進に優れた実績がある企業として認定される「健康経営優良法人・ホワイト500」に6年連続で選ばれています。当社は、「わたしも幸せ、あなたも幸せ、みんな幸せ」というスローガンを掲げ、広い視点で社員や関係者が輝きながら成長できて能力を発揮できる企業風土を醸成しています。

Q. SDGs/ESGにも積極的ですが、具体的にどのような活動を展開していますか。

 企業理念の最初に「環境」を掲げています。これは創業者の父から引き継いでおり、世の中がSDGs/ESGに注力し始めるかなり前から社会活動を通じた公益性が重要と認識しています。具体的には、鹿児島県指宿市に340万平方メートルの森林を保有し、間伐と植林による生物多様性の保全と温室効果ガス削減(年間約1800トン)に貢献するとともに地熱発電(1400万kWh)を行っています。また、「メディポリス国際陽子線治療センター」の運営支援を通じて人々のWellbeing(健康な人生をおくる)実現をお手伝いしています。

Q. 子供の教育支援にも熱心です。どういう活動を展開されていますか。

 カンボジアの子会社でフリースクールを運営し、200人ほどの子供たちを教育するとともに国際教育を行う学校法人ヴェリタス学園の外国人教師雇用や運営を支援しています。ブータン王国政府と設立した合弁会社を通じて、現地に乳製品製造工場を建設、ヨーグルトやチーズを生産し、乳幼児死亡率の改善に取組みました。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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