【前回まで】財務省主税局の土岐は、上智大学に宮城教授を訪ねた。そこで見せられたのは、国籍不明機を自衛隊が迎撃するも、予算不足で弾切れになり爆撃されるというアニメだった。
Episode3 リヴァイアサン
1 (承前)
食い入るように映像を見つめていた土岐が、大きなため息を漏らした。
「ちょっと強烈過ぎるな。それに、今となっては、これは使えない」
「何で! 今だからこそ、使わないとダメだ」
宮城が断言した。
文化人類学が専門でありながら、宮城は日本社会における国家財政の問題と国民意識について独特の研究を続けている。
歯に衣着せぬ発言と桁はずれの発想が受けて、世代を問わず人気を博している。
かつて、土岐も参加していた歳出半減プロジェクト「オペレーションZ」にも参画し、1期だが衆議院議員も務めた。
土岐とは、その時からの付き合いだった。
防衛費の大幅増額が予想される中、防衛費増額の必要性を訴える方法を、宮城に相談した。そこで宮城が考えたのが、「予算が足りないために爆撃を受け、炎上する日本の国土」を描いたショートアニメだ。
「回りくどい屁理屈より、カネがなければ、敵から日本は守れないと、どストレートに伝えるべき」という宮城らしい発想だった。
無論、依頼した時には、北朝鮮のミサイルの本土直撃危機が起きるなど、想定していなかった。だからこそ、架空の非常事態を描いてそれを実感してもらおうと考えたのだ。
しかし、現実がフィクションを凌駕してしまった。こんなアニメを見るまでもなく、日本人の怒りは沸騰し、防衛費増額に反対するのは「非国民!」だと言われるほどになっている。
「それで、フラフラ殿下に、本気で戦争する気はあんの?」
コーヒーを渡しながら宮城が尋ねた。
「俺は官邸詰めじゃないんで、総理の腹の内はよく分からないが、まず、ないな」
「弱虫だなあ。中国のトップですら、北朝鮮は謝るべきだって言ってんだぞ。なのに、向こうはその気配すらない。ここまでコケにされて黙っていては、国際社会の笑い者になるぞ」
宮城の主張に異論はない。
日本政府は、北朝鮮に謝罪を求めてはいるが、有事を想定した準備が進んでいるという話は聞かない。
さすがに北朝鮮への攻撃まで考えなくても、独立国家として時に毅然とした態度を示すことは、とても重要なのだ。
そんな声明すら出せない総理に、土岐は失望している。
「このクソだらけた平和ボケの国には、戦争ぐらい起きた方がいいんだけどなあ」……
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