オペレーションF[フォース] (60)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第60回

執筆者:真山仁 2024年4月13日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】防衛力強化資金対策室で周防の上司となった土岐は、寄付で防衛費増額を賄う江島元総理の法案を否定する。土岐は対案として、法人税増額と安全保障税新設を主張した。

 

Episode6 一世一代

 

7(承前)

「問題は、税の呼称だと思うんだ」

 安全保障税とか防衛税では、理解を得にくい。周防は、「平和税」などは、良いのではと思うのだが、あまり受けは芳しくない。

「上智大の宮城先生は、『防人[さきもり]税』を推してる」

 飛鳥時代、朝廷が九州沿岸の防衛のために置いた守備隊のことだ。

「いかにも、宮城先生らしいですね。実際、警戒する相手も中国だし」

「北朝鮮のミサイルが、新潟県新発田市に着弾寸前まできたことで、日本海沿岸地域では、安全保障のための新税は、かなり理解を得ている。問題は、首都圏だな」

 周防は、都倉が精力的に続けているタウンミーティングにも、何度か参加している。土岐が言うように日本海側で催す場合は、防衛力強化を住民側が強く求めているし、その負担については「当然」という声が多い。

 ところが、これが太平洋側になると、一気にトーンが下がる。さらに、首都圏では、防衛力強化イコール軍事大国化と考える人が少なくない。彼らが強硬に反対意見を述べるため、タウンミーティングは毎回荒れた。

「呼称はともかく、安全保障税の新設は、総理が、相当な政治力を発揮して下さらないと実現は無理ですよ。とはいえ、これだけ支持率が下がってますからね。絶対に、増税なんて口にしないでしょう」

「あの方は、世論に弱い。国民がこぞって『防人税』導入を訴えれば、やるかも知れないだろう」

 自身の案になると、土岐も甘くなる気がする。

「だったら北朝鮮に、都内を狙ってもらえば、世論形成も一発ですよ」

 

8

 衆議院安全保障対策特別委員会を終えて、防衛省に戻った都倉は、臨時の防衛会議に出席した。

 防衛会議は、防衛相が呼びかけ、内局と自衛隊幹部が一堂に会する政策決定会議だ。

 この日は、大臣の肝いりで続けている防衛費の精査作業の進捗状況と、防衛強化策についてのヒアリングだった。

 都倉に同行している磯部が、濃い疲労感を滲ませているのと対照的に、都倉は元気溌剌だった。

 まず、精査作業については、細部にわたるまで不要な費用や無駄なもの、有効性に乏しい装備を洗い出しているのだが、先月、都倉がついに禁じ手を提案した。

 すなわち――陸上自衛隊員半減だ。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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