米のウクライナ支援は「Too Little, Too Late 」か――ロシアの反応の表と裏

難航していたウクライナ、イスラエル、台湾への米国の緊急支援法案が上下両院で可決され、ジョー・バイデン大統領が4月24日に署名、成立した。ウクライナ向け援助は総額608億ドル(約9兆4000億円)で、これにより、半年間停滞した米国のウクライナ向け軍事援助が再開される。
バイデン大統領は署名後の演説で、「われわれは同盟国から離れない。独裁者に屈しない」と強調。兵器の引き渡しが直ちに始まると述べた。大統領によれば、武器・弾薬の不足で劣勢に立たされていたウクライナ軍の東部前線では、下院可決のニュースに歓声が湧き上がったという。
ウクライナ軍にとっては恵みの雨ながら、これによって不利な戦局を転換できるかは不透明だ。北大西洋条約機構(NATO)の介入拡大の動きもあり、戦況の泥沼化が一段と進む可能性もある。
兵器予算はウクライナが圧倒
総額608億ドルの援助は、2022年2月の開戦後2年間に米国が注ぎ込んだウクライナ支援額にほぼ匹敵する。
米国防総省によれば、新たな支援には各種防空ミサイルや高機動ロケット砲システム「ハイマース」の弾薬、砲弾、戦闘車両、対戦車ミサイル「ジャベリン」、長射程精密誘導ミサイル「ATACMS」などが含まれる。「ATACMS」は射程が従来の160キロから300キロに延長され、ウクライナ領内に侵攻したロシア軍の後方拠点の攻撃が可能になる。米政府は同ミサイルをロシア領攻撃に使用しないよう確約させた。
欧州連合(EU)が今年2月に承認したウクライナへの経済・軍事援助は4年間で500億ユーロ(約8兆円)。これにEU加盟国の個別の援助が加わる。ウクライナの今年の国防予算は約7兆円だ。
ロシアの2024年国防予算は前年比68%増の10.8兆ルーブル(約18兆円)で、治安対策費を含め、国防関連予算が歳出全体の約40%を占めた。国防予算の詳細は非公表ながら、人件費や死傷した兵士への補償、兵器開発費なども含まれ、兵器の購入費は全体の半分程度とみられる。
兵器調達費に限れば、今年はウクライナがロシアを凌駕する模様だ。米紙「ニューヨーク・タイムズ」(4月22日)は、「ウクライナにとって新たな希望」と題した記事で、「すべてがうまくいけば、ウクライナは2025年に反攻作戦を開始し、東部と南東部 の領土を奪還する可能性がある」と分析した。
米シンクタンク「戦争研究所」は4月24日 、「十分な量のATACMSが到着すれば、ウクライナ軍はロシア軍の後方拠点を広範囲に威嚇し、兵站施設や橋などに重大な打撃を与えることができる」と指摘した。
援助到着前に「5月攻勢」
これに対し、ロシア側は表向き、米国の支援の効果を否定している。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「我々はこの事態を予想していた。戦況を大きく変えることはなく、より多くのウクライナ人が殺されるだろう」と述べた。
外務省のマリア・ザハロワ報道官は「ベトナムやアフガニスタンと同じように、この戦争は米国にとって屈辱的な大失敗に終わるだろう」と酷評した。ドミトリー・メドベージェフ前大統領はSNSで、米国を「21世紀の邪悪な帝国」とし、米国の内戦勃発を促した。

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