
第二次世界大戦終結から80周年の今年、ロシアは対日歴史戦を挑み、反日外交を強化する構えだ。対ウクライナ戦争が長期化する中、戦勝意識を鼓舞して国民の愛国心を高揚させる狙いもある。
ドナルド・トランプ米大統領就任直後の1月21日、ウラジーミル・プーチン大統領は中国の習近平国家主席とオンライン会談を行い、5月9日のモスクワでの対独戦勝記念式典に習主席が出席、9月3日の北京での対日戦勝記念式典にプーチン大統領が出席することを申し合わせた。
東アジアでロシアは、中国、北朝鮮と連携して日米韓に対抗する構えで、軍事的な挑発も拡大しそうだ。
意外だった「日本センター」閉鎖
日露関係はウクライナ侵攻後の制裁合戦で冷戦後最悪の段階にあるが、ロシア政府が1月17日、ロシア国内で日本語教育を通じた人材育成を行う「日本センター」の運営に関する両国覚書の履行停止を発表したことは意外だった。
「日本センター」はロシア法人ながら、日本政府が全額を出資して運営。モスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストク、ハバロフスク、ニジニノブゴロド、ユジノサハリンスクの6カ所に置かれ、日本側が講師を派遣し、日本語教育や市場経済の改革技術を講義してきた。センターには、日本の書籍や漫画、雑誌類も置かれ、ロシアに多い日本文化ファンの集いの場となっていた。
ロシア外務省は「日本による非友好的措置」を問題視して覚書の履行中止を通告。今後の活動はロシア関係機関が検討するとしているが、活動の法的根拠となる覚書が失効した以上、閉鎖されそうだ。
直接的には、日本政府がその1週間前、北朝鮮軍のウクライナ戦線派兵など朝露の軍事協力を受けて、ロシアなどの33組織と12個人に対する資産凍結を行ったことへの報復措置のようだ。
林芳正官房長官は「覚書の運用を一方的に終了することは受け入れられない」とし、撤回を求めた。通常なら、日本側がウクライナ侵攻に抗議して撤退を決めるところだが、今回はロシア側が撤退を要求。日本が事業継続を望むという奇妙な展開となった。
ロシア軍のウクライナ侵攻前後から、米政府の交流施設であるアメリカン・センター、英国のブリティッシュ・カウンシル、ドイツのゲーテ学院などはロシアでの活動を停止したが、日本センターは活動を続けていた。
保守派の日本専門家、アナトリー・コシキン・ロシア東洋大学教授はシンクタンク「戦略文化基金」のサイトで、「日本はソ連崩壊後、国内経済のあらゆる部門を破壊してロシアを西側の原材料供給基地にしようとした。日本センターはそのためのソフトパワーとして利用された」と酷評し、閉鎖を支持した。
200億円が「税金の無駄」に
ロシアの「日本センター」は1994年以来30年以上続いており、民主党政権時代に「税金の無駄」とする批判もあった。
日本センターには通常、所長、副所長の日本人2人が駐在。表向きは公募で選ばれるが、実際には自民党への政治献金が多い大手商社OBが多い。商社ロシア担当者の優雅な天下り先と揶揄される。年間維持費は十数億円で、これまでに日本語を履修するロシア人約6000人を無償で日本に招待している。旅行目的で履修する人も少なくない。
もともとは1992年のミュンヘン・サミット(主要7カ国首脳会議)が打ち出したロシアの市場経済技術支援に沿って開設されたが、いまだに続けているのは日本だけだ。開設当時、日本の名目国内総生産(GDP)はロシアの約50倍だった。しかし、プーチン大統領は昨年末の内外記者会見で、「ロシアの購買力平価での経済規模は日本を抜いて世界4位になった」と豪語しており、もはや市場経済の技術指導は意味がなくなった。
日本外務省は「日本センター」を北方領土問題解決の環境整備と位置付けたが、ロシア側は領土交渉を停止するなど、領土返還はますます遠のいており、環境整備の効果はなかった。
外国機関の世論啓蒙を嫌うロシア連邦保安庁(FSB)は日本センターを敵視し、日本センター・モスクワ所長を「海賊版パソコンソフトを無断使用した」として起訴したり、サハリンの日本センターを強制捜査したこともある。閉鎖に追い込むタイミングを計っていたようだ。
安倍晋三政権以降、日本政府が日露平和条約交渉に向けた経済協力費として計上した予算は2016年から6年間で265億円に上り、うち200億円を支出していたことが、「東京新聞」(2022年3月25日)で報じられた。この中には「日本センター」履修生の訪日研修経費30億円も含まれるが、対露制裁下で履修生の訪日を認めると、誤ったメッセージを与えてしまう。
樺太・千島占領の「火事場泥棒」を正当化
ロシアは戦勝80周年の今年を戦後史の節目の年と位置付け、プーチン大統領は昨年9月、ウラジオストクでの「東方経済フォーラム」で、第二次世界大戦末期の日ソ戦争を記念する博物館を極東に建設すべきだと指摘。「大戦の最後の戦いの記憶を風化させてはならない」と述べた。

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