米国が進める「海藻由来のバイオ燃料」と「クジラ保護」の両立

2023年6月27日
エリア: 北米
2023年5月9日、米マサチューセッツ州ダックスベリー沖の養殖場で収穫されるシュガーケルプ。同養殖場を運営するDuxbury Sugar Kelp社のオーナーJohn Lovett氏は、海洋学研究所と提携してクジラに安全な設備を開発している (C)REUTERS
 
米エネルギー省はクリーンエネルギーの1つとして海藻由来のバイオ燃料に注目しているが、課題となっているのがクジラの保護だ。海藻類の養殖が盛んな米北東部のニューイングランドの海域は、絶滅危惧種のタイセイヨウセミクジラの回遊域でもあり、養殖に使用されるロープにクジラが絡まる危険性が指摘されている。

[マサチューセッツ州ケープコッド湾発(ロイター)] アメリカ北東部のリゾート地ケープコッド湾で、ピルグリムと名付けられた10歳のメスのクジラとその子クジラが、研究船「シアウォーター」の周りを泳いで小さな甲殻類を食べている。この親子は、アメリカの東海岸を回遊するタイセイヨウセミクジラの数少ない生き残りだ。2010年に480頭ほどいたタイセイヨウセミクジラは、今では340頭までに減ってしまった。

ケープコッドの海域を泳ぐ絶滅危惧種の北大西洋セミクジラ=2023年3月27日撮影(C)REUTERS
 

 通りすがりの船にぶつかったり、アメリカ東海岸で盛んなロブスター漁に使われるロープに絡まったりすることが、彼らの脅威になっている。こうした出来事によってクジラが怪我をし、あるいは死に至ったケースは、2017年以来、98件記録されている。さらに現在、タイセイヨウセミクジラが直面しているもう1つの脅威が、米エネルギー省がクリーンエネルギーの1つとして力を入れている、ケルプなどの海藻類を使ったバイオ燃料だ。

 エネルギー省は、海藻類からバイオ燃料を生産する研究に数千万ドルの資金を費やしてきた。ビジネスとして発展する可能性が認められれば、ケルプはトウモロコシ由来のエタノールよりも環境に優しい代替品になり得ると、海藻類由来のバイオ燃料の提唱者たちは言う。しかし、クジラ研究者たちはこうした動きに懸念を示している。伝統的なロブスター漁と同じように、海藻の養殖場ではケルプが成長しやすいよう、海中にロープを張り巡らすからだ。海藻養殖のロープにクジラが絡まってしまう事例はまだ確認されていないが、ウッズホール海洋研究所の海洋生物学者Michael Moore氏は、「水中にロープがあれば、絡まってしまうリスクは十分にある」と懸念を示す。……

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