
[マサチューセッツ州ケープコッド湾発(ロイター)] アメリカ北東部のリゾート地ケープコッド湾で、ピルグリムと名付けられた10歳のメスのクジラとその子クジラが、研究船「シアウォーター」の周りを泳いで小さな甲殻類を食べている。この親子は、アメリカの東海岸を回遊するタイセイヨウセミクジラの数少ない生き残りだ。2010年に480頭ほどいたタイセイヨウセミクジラは、今では340頭までに減ってしまった。

通りすがりの船にぶつかったり、アメリカ東海岸で盛んなロブスター漁に使われるロープに絡まったりすることが、彼らの脅威になっている。こうした出来事によってクジラが怪我をし、あるいは死に至ったケースは、2017年以来、98件記録されている。さらに現在、タイセイヨウセミクジラが直面しているもう1つの脅威が、米エネルギー省がクリーンエネルギーの1つとして力を入れている、ケルプなどの海藻類を使ったバイオ燃料だ。
エネルギー省は、海藻類からバイオ燃料を生産する研究に数千万ドルの資金を費やしてきた。ビジネスとして発展する可能性が認められれば、ケルプはトウモロコシ由来のエタノールよりも環境に優しい代替品になり得ると、海藻類由来のバイオ燃料の提唱者たちは言う。しかし、クジラ研究者たちはこうした動きに懸念を示している。伝統的なロブスター漁と同じように、海藻の養殖場ではケルプが成長しやすいよう、海中にロープを張り巡らすからだ。海藻養殖のロープにクジラが絡まってしまう事例はまだ確認されていないが、ウッズホール海洋研究所の海洋生物学者Michael Moore氏は、「水中にロープがあれば、絡まってしまうリスクは十分にある」と懸念を示す。……

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