【Exclusive】WHOの研究機関、人工甘味料「アスパルテーム」を発がん可能性リストに

2023年7月17日
カテゴリ: 医療・サイエンス
エリア: その他
体重60キロの成人の場合、ダイエット炭酸飲料を毎日12缶~36缶飲まない限り危険はないとも (C)Reuters
清涼飲料や食品に使われる人工甘味料「アスパルテーム」は、ヒトに対して発がん性がある可能性があるとWHOの専門研究機関が発表した。ただし、その分類は「漬物」と同カテゴリー。WHOと国連食糧農業機関の合同専門家会議が別途に公表している許容摂取量は変更されず、「一般消費者を混乱させる」との批判も上がっている。

※編集部注:このロイター記事の原文は6月29日に配信されました。7月14日、WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)はアスパルテームの発がん性について、4段階の分類のうち下から2番目の「2B」に指定したことを発表しました。アスパルテームの人体への影響やこれまでの論争の経緯等を中心に、原文に編集を加えてお伝えします。

[ロンドン発(ロイター)]アスパルテームはコカ・コーラのダイエットソーダからマースのエクストラガム、スナップルの一部の飲料にいたるまで、様々な製品に使用されている。

 IARCによる今回の方針は、専門家会議を経て6月に決定された。この会議は物質の潜在的リスク評価を目的としており、人体が安全に摂取できる許容量は示していない。この点に関しては、IARCの発表と同じ7月14日に、WHO(世界保健機関)と国連食糧農業機関(FAO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)がアスパルテームを有害と確信できる証拠はないとした上で、体重1キロ当たり1日40ミリグラム未満という従来の許容摂取量を引き続き推奨している。これに従えば、体重60キロ(132ポンド)の成人の場合、ダイエット炭酸飲料を毎日12缶~36缶(数量はアスパルテームの含有量によって変わってくる)飲まない限り危険はない。JECFAは1981 年にこの水準を設定し、欧米を含む世界各国の規制当局にも広く共有されている。

 IARCの裁定は、これまでにも消費者がさまざまな物質の使用に懸念を強め、訴訟に発展したり、メーカーが製造方法の見直しや代替品への切り替えを迫られたりするきっかけになってきた。そのため、IARCの評価は一般消費者を混乱させるという批判もある。

 これに対してIARCのスポークスマンは、IARCとJECFAは互いを補完するにあり、IARCの結論は「発がん性を理解するための基本的な第一歩」だとした。そしてJECFAは、「ある条件と使用量のレベルにおいて特定の肉体的ダメージ(がんなど)が発生する確率を決定すべくリスク評価を行う」と説明している。

 しかし、日米の業界と規制当局は、二つの機関の調査が並行することで混乱が生じると懸念している。ロイターが確認したところでは、日本の厚生労働省で総括審議官を務める富田望氏は、WHO事務局次長のズザンナ・ジャカブ博士に宛てた3月27日付の書簡で「アスパルテームの審査にあたっては、国民に混乱や懸念が生じないよう、両機関が協調して取り組むようお願いしたい」と記している。WHOが本部を置くジュネーブの国連日本政府代表部は、この件に関するコメントの要請に応じなかった。

論争

 実際、IARCの決定は大きな衝撃をもたらし得る。IARCは2015年、除草剤グリホサートが「おそらく発がん性を有する」と結論づけた。欧州食品安全機関(EFSA)などが疑義を呈したものの、関連業界への影響は長期に及んだ。ドイツのバイエルは2021年、グリホサートを有効成分とする同社の除草剤「ラウンドアップ」の使用が、がんを誘発したとして損害賠償を命じた合衆国最高裁の判決について、3度目の上告を棄却されている。IARCの決定にはまた、避けることが難い物質や状況に対して無用な警戒を強いているとの批判もある。

 国際甘味料協会(ISA)のフランシス・ハントウッド事務局長は、「IARCは食品安全機関ではないし、アスパルテームに関する彼らの調査も科学として総合的なものではなく、ひどく疑わしい研究に基づくところが大きい」と述べた。マース、コカ・コーラ、カーギルなどが会員として名を連ねるISAは、「消費者を惑わしかねないIARCの調査に重大な懸念を抱いている」と表明した。際清涼飲料協議会(ICBA)のケイト・ロートマン事務局長は、公衆衛生当局は「このようにリークされた見解を危惧すべき」であり、調査結果は「消費者をいたずらにミスリードし、無糖ないし低糖という安全な選択肢ではなくより多くの砂糖を摂取させるおそれがある」と警告した。

 IARCが設定した発がん性の4段階分類は以下の通り。対象となる物質そのものの危険性ではなく、発がん性を示す科学的データが根拠として強いかどうかに基づいている。アスパルテームは下から2番目の「2B」に分類された。

1 =「発がん性がある」

2A=「おそらく発がん性がある」

2B=「発がん性がある可能性がある」

3 =「発がん性について分類できず」

 1のグループには加工肉、たばこ、アルコール飲料、アスベストなどが含まれる。これらはすべて、がんの原因となることを示す説得力あるエビデンスが存在する。

 2Aのグループは、徹夜で働くこと、……

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