《高額キックバックの闇》ビッグモーター事件で目を向けるべきもう一つの金融取引

執筆者:北山桂 2023年9月15日
タグ: マネー
信販会社が顧客紹介手数料として中古車販売会社に支払うキックバックは、事実上、中古車を購入する顧客が負担している[立ち入り検査のためビッグモーターの店舗に入る国土交通省の職員=7月28日、さいたま市緑区](C)時事
ビッグモーターを巡る一連の事件では、事故車の修理に伴う保険金の詐取が最大の焦点になっているが、中古車販売に係る割賦取引についても疑問視する見方が強まっている。ビッグモーターから獲得するオートローンの件数を増やすために、信販会社が高額なキックバックを支払うことで、中古車を購入する顧客の負担額が必要以上に大きくなっていた恐れがあるからだ。

 中古車販売会社ビッグモーターによる保険金詐取事件が日本中を騒がせている。事故車の修理に伴う自動車保険の保険金を水増しして損害保険会社に請求していたことが問題になっているが、ビッグモーターの中古車販売においても疑問視される金融取引がみられる。中古車の購入にオートローン(個品割賦)が利用された際に、その割賦契約を回してもらった信販会社がビッグモーターに支払ってきた「キックバック」だ。

 ビッグモーターをはじめとした大手中古車販売会社において、キックバックは重要な収益源と位置付けられており、多額のキックバックを支払う信販会社ほど割賦契約を獲得しやすい構図になっている。そして、キックバックは顧客が負担する「割賦手数料」に組み込まれるため、信販会社が自らの利益を保持したまま高額なキックバックの要請に応じれば、顧客が負担する割賦手数料も必然的に割高になってしまう。収益至上主義に突き進んだビッグモーター、そして業界最大手からオートローンを大量に獲得したい信販会社との狭間で、顧客が犠牲になっていた恐れがある。

中身が見えない「割賦手数料」

 中古車を分割払いで購入する際には、信販会社が提供するオートローンが最も用いられている。中古車販売会社からオートローンの申し込みを受けて契約に至った場合には、信販会社が顧客紹介手数料として中古車販売会社にキックバックを支払うことは通例となっているが、このキックバックは事実上、中古車を購入する顧客が負担している。

 割賦で中古車を購入する場合、車体価格に上乗せされるローン金利や各種手数料はひとまとめに「割賦手数料」として示されるため、キックバックも割賦手数料の中に含まれている(図表1)。顧客からはその実態が見えない仕組みだ。

出所:実際の見積書に印字されていた支払額や内容をもとに筆者作成

 キックバックの金額は、割賦契約期間や設定金利によっていくつものパターンがある。キックバックを重要な収益源とする中古車販売会社においては、より多くのキックバックを得られる信販会社のオートローンを優先するインセンティブが働き、信販会社においては、他社よりも多額のキックバックを支払うことで、より多くのオートローンを獲得することができる。……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
北山桂(きたやまかつら) 金融ジャーナリスト、元「週刊金融財政事情」編集長 1975年群馬県生まれ。明治大学卒業後、日本農業新聞や博報堂アイ・スタジオ(コピーライター)などを経て、2005年から一般社団法人金融財政事情研究会。18年間にわたって「週刊金融財政事情」編集部に所属し、18年4月~23年3月までの5年間は編集長。23年4月から出版部に所属し、書籍制作を担当。自身のライフワークとして金融ジャーナリストとしても活躍。
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