「ビッグモーター」「ジャニーズ」は「超金利政策」のあだ花 問われる銀行と取引先の責任

執筆者:磯山友幸 2023年9月12日
タグ: マネジメント
エリア: アジア
超低金利下では運転資金の貸し付けを通じた経営内容のチェックが働きにくい[記者会見するジャニーズ事務所の(右から)藤島ジュリー景子氏、東山紀之氏、井ノ原快彦氏=2023年9月7日、東京都千代田区](C)時事
ジャニーズとビッグモーターの不祥事は、この二つの非上場「大企業」の経営実態がガバナンスを欠いた「個人商店」レベルだったことを明るみに出した。だが、その個人商店にも、監視の目を光らせるべき存在はあるはずだ。超低金利下で資金の「貸し手責任」を放棄してきた銀行と、株式100%を所有するオーナーに独占的な利益を献上しかねない取引先の責任も問われている。

 ジャニーズ事務所がようやく記者会見を開いた。会見まで姿を現さずにいた藤島ジュリー景子社長が出席し、自分は知らなかったという姿勢を崩さないまま、その場で社長退任を発表。今後の責任追及の矢面には新社長を立たせるのだろう。だが、自身は社長を辞めても会社の株式は100%保有し続ける。「経営を刷新する」とは言うものの、オーナーであるという厳然たる事実に変わりはない。

 この構図、1カ月半前に記者会見を開いたビッグモーターと瓜二つである。兼重宏行氏は社長を辞めたものの、持株会社を通じ、副社長だった長男と共に株式を100%保有している。経営を刷新するにも、株主がウンと言わなければ取締役ひとり選べない。オーナーとしての地位は何ら変わっていない。

 ビッグモーターはグループで6000人の従業員を抱え、売上高は7000億円に達するとされる。ジャニーズ・グループも芸能界で圧倒的な存在で、売上高などはまったく公表していないが、1000億円規模だと見られている。ともに社会的に大きな影響力を持つ「大企業」にもかかわらず、株式を上場しておらず、実態は「個人会社」の域を出ない経営スタイルをとってきた。

 会見では両社ともに「ガバナンスの欠如」が指摘され、経営側もそれを認めていた。なぜ、これだけ社会的に大きな存在になりながら、圧倒的なワンマン経営が許され、ガバナンスの欠如が放置されてきたのだろうか。

なぜか話題にならない銀行の「貸し手責任」

 結論から言えば、2013年以降、政府が推し進めた「超低金利政策」がビッグモーターとジャニーズ事務所という異形の存在を放置し、ガバナンス不全を許してきたと言っていい。いわば超低金利政策の「あだ花」だったと言えるのではないか。

 どういう意味か。

 通常、これだけの企業規模になると、数百億円から数千億円にのぼる運転資金が必要になり、それを個人ひとりでは用意できない。資産家が集まって出資すれば株主は複数になるし、通常は資金調達するために株式上場を考える。上場すれば、幅広く資金を集めることができるが、当然、議決権は分散する。オーナー企業で過半数を一族で握ったとしても、少数株主と呼ばれる第三者が株主になる。当然、株主総会を開かねばならず、そこでの説明責任が問われる。つまり、ガバナンスが働くわけだ。いわゆる「資本の規律」である。

 上場しない場合は、……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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