「創業家理事長」が消滅させた大学――「夙川学院」不祥事の構造

執筆者:磯山友幸 2024年5月13日
タグ: マネジメント
エリア: アジア
ガバナンスのあり方を学校法人自身が決めている限り、不祥事も繰り返されると見るべきだ(夙川学院公式サイトより)
税制上の恩典や助成金で経営が支えられる学校法人は、建前としては個人が支配できない仕組みになっている。株式会社と違い出資金で影響力を持つことも不可能だ。だが、それゆえに権限が集中する理事長ポストを握ってしまえば、逆に操りやすい組織でもある。学校法人の多くは、今も「創立者」やその一族が理事長を務めているところが少なくない。その「オールマイティー」の創業家理事長が暴走すればどうなるか。130年以上の歴史を誇った兵庫・西宮の夙川学院が消えた経緯が、その典型例を雄弁に物語る。

 兵庫県西宮市の阪急夙川(しゅくがわ)駅から甲陽園駅に向かう支線「阪急甲陽線」沿線は、関西でも指折りの高級住宅街だ。山沿いには関西学院大学をはじめ多くの学校が点在し、文教地区であることも住宅地としての価値を高めてきた。

 そんな甲陽線沿いの神園町の道路信号にあった「夙川学院前」という標識が消えたのは1年ほど前のことだ。かつて、ここには夙川学院高校・中学校の広大なキャンパスが広がっていたが、今は総戸数353戸の「ヴェレーナシティ夙川パークナード」など高級マンション・住宅に姿を変えた。

 夙川学院は数々の不祥事の末に資金繰りが行き詰まり、キャンパスを移転、2019年には高校、中学ともに他の学校法人の手に渡った。神園町のキャンパスは売却され、高級マンション群へと姿を変えたわけだ。今、その一角には「認定こども園」があるが、規模を縮小して短大とこども園だけを持つ学校法人になり、神戸市長田区に移転した「夙川学院」が今も経営する。

再び注目された「かつての不祥事」

 その夙川学院が久しぶりに私学関係者の話題に上った。2023年末に学院のホームページに「重要なお知らせ」という一文を載せたのだ。2021年当時の理事・法人事務局長が法人の預金口座から合計853万9779円の使徒不明の金を引き出していたという内容だった。出金分はすでに回収したとされていたが、2024年1月には私学助成金が10%カットされる処分を受けた。その際出された増谷昇理事長名の文書には「引き続きガバナンス体制の強化に取り組む所存です」と書かれていた。

 私学関係者がそれほど大きいとは思えないトラブルに関心を持つのは、かつて、学院の校地を失うことになった不祥事の始まりに酷似しているからだった。……

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カテゴリ: 社会
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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