「同床異夢」で「林理事長おろし」に動く日大の魑魅魍魎

執筆者:磯山友幸 2024年1月10日
タグ: マネジメント
エリア: アジア
独裁体制を敷いた理事長が逮捕された日大で、今度は理事長が副学長の解任をできずに迷走するという逆の問題が発生した[文科省にガバナンス改善計画を再提出した日本大学の林真理子理事長(中央)。右は同大学の大貫進一郎副学長。左は篠塚力監事=2023年12月25日、東京都千代田区](C)時事
2024年、大学は本当の競争時代に突入する。命運を分けるのは「ガバナンス(組織統治)」だ。相次ぐ学校法人のスキャンダルを受け、経営陣へのチェック機能が強化された改正私立学校法は25年4月に施行が迫る。そして昨年末成立の改正国立大学法人法は、大規模国立大に対して予算・決算権限と引き換えのガバナンス徹底を要求し、こちらは今年10月に施行される。いかにして組織から不祥事を排し、世界と伍する教育・研究機関へと攻め出すか。勝者の選別が進む大学経営の現場を連続企画でレポートする。

 現職の理事長が逮捕されるという前代未聞のスキャンダルから2年がたった日本大学。絶大な権力を振るった田中英寿・元理事長体制を一新して誕生したはずの林真理子体制でも、再びスキャンダルが勃発した。なぜ、日大でこれほどまでに世間を騒がす不祥事が続くのか。

 これは決して日大だけの問題ではなく、大学を運営する学校法人が抱える「ガバナンス」の欠陥が背景にある。すったもんだの末に成立し2025年4月から施行される改正私立学校法では、大学のガバナンス強化に向けて各大学の取り組みを求めている。青年人口が今後大幅に減少し、生き残りに向けた競争が一段と激しくなる中で、大学経営を左右するガバナンスの行方を追う。

ガバナンス強化を逆手にとる人々

 「何としても林理事長を引きずり下ろそうという勢力が暗躍しているんです」と日大の改革派関係者は語る。

 日大は2023年12月15日に臨時理事会を開き、違法薬物問題を起こしたアメリカンフットボール部の廃部を決めた。だが、これもすんなり決まったわけではなく、12月1日の理事会では反対意見が出て継続審議となっていた。

 また、責任を取って辞任が決まった酒井健夫学長と澤田康広副学長についても、11月22日の理事会では「辞任勧告」をしたものの、両者が辞任を受け入れて正式に決まったのは11月29日の臨時理事会だった。しかも即時辞任ではなく、澤田副学長が12月末、酒井学長は2024年3月末ということになった。

 一見、林理事長のリーダーシップが欠如しているように見える。メディアにも少なからず、林氏は作家で経営には素人なので理事長としては不適格だという論調がある。だが、実は、林理事長が手腕を発揮できない「ガバナンス上の制約」があり、それを利用して勢力拡大を図る人々との凄まじいバトルが繰り広げられているというのだ。

澤田副学長が続けた徹底抗戦

 違法薬物問題の責任者である澤田副学長を巡っては早くから更迭説が燻っていた。……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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