
日本最大の私立大学の足元が揺らいでいる。不祥事が続いた日本大学への志願者が大幅に減少しているのだ。日大が発表した3月5日現在の2024年度「入学志願者数一覧」によると、4年制大学部門(夜間部を除く)の志願者累計は7万5442人と、前年度(最終数)の9万8057人から2割以上落ち込んでいる。大学の入試には様々な形態があるため、まだ積み増しされるが、志願者ののべ数は2万人以上の減少が避けられない。
13年にわたって理事長として君臨した田中英寿氏が、2021年に逮捕・起訴され、脱税で有罪となった田中事件を受けて、林真理子氏を理事長に迎えるなどガバナンス体制を刷新したものの、2023年にはアメリカンフットボール部員が大麻や薬物使用で逮捕されるなど不祥事が続いた。責任を取って同年に副学長が辞任、酒井健夫学長も3月末で辞任することを決めて幕引きを図ったが、2月下旬にアメフト部員が新たに書類送検されるなど余波が続いている。入試の出願時期を迎えても問題が尾を引いていることが、志願者の大幅な減少につながっているのは間違いない。
もはや志願者減は「短大・女子大・外語大」に止まらない
報道によると、「日東駒専(日大、東洋大、駒澤大、専修大)」と呼ばれ日大と競合する「東駒専」に受験生が流れているという。東洋大学は志願者を1万人以上増やして9万人台となり、日大を大きく凌駕。駒澤大も前年比102%の約3万人、専修大も同113%の4万人台と、志願者を増やしている。
もっとも日大もすべての学部で志願者を減らしたわけではない。前述の大学公表資料によると、医学部は前年度比128.1%、芸術学部は103.0%と好調だ。一方、スポーツ科学部が68.0%、経済学部が70.7%、国際関係学部が72.3%、商学部72.8%となっている。総じて社会科学系の学部が受験生を減らしている。スポーツ科学はアメフト問題によるイメージ悪化などが直接響いている可能性があるが、他の学部の低迷は不祥事だけが影響とは言い切れない。
「今年の志願者数はメタメタです」と語るのは地方にある外国語大学の経営者。首都圏の中堅大学でも外国語学部や国際関係学部が軒並み志願者を減らしている。今や存続が危うい形態として「短大・女子大・外語大」と言われ、一般の大学でもそれに関連する学部が苦戦している。さらに、「商学部」や「経済学部」といった既存の伝統的な文系学部でも志願者減がはっきりしてきた。この傾向が日大に、より鮮明に表れていると見ることもできる。
18歳人口は2035年度から更に激減
志願者が減れば「受験料」収入が減るが、それが経営を直接揺るがすわけではない。合格者を増やして入学定員を充足させることができれば学費収入は変わらないからだ。問題は合格ラインをむやみに下げれば、受験予備校から「ボーダー・フリー」「Fランク大学(Fラン)」の烙印を押され、さらに受験者が減る悪循環に陥りかねない。日大の場合、まだまだ「Fラン」に転落する可能性は低く、定員は充足可能と見られている。
だが、日大での「志願者2割減」は大学経営者にとって事件であることは間違いない。不祥事を起こした場合、競合相手がひしめくクラスの大学では、一気に定員割れに転落する学部が出てくることを示している。

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