トランプ大統領の発言とアクション(7月17日~7月23日):日米関税合意「史上最大のディール」は「よい買い物」?
5500億ドルは関税引き下げの「対価」
ビートルズは「金で愛は買えない」と歌ったが、関税は金で買えるらしい。少なくとも、ハワード・ラトニック商務長官によれば、そうなる。ラトニック氏は7月23日、ブルームバーグ・テレビに出演し、日本が相互関税につき4月2日時点の24%、7月7日時点の25%から15%へ引き下げられたのは、対米投資資金を5500億ドルとした「対価」と説明した。
ドナルド・トランプ大統領は7月22日(米国東部時間)、トゥルース・ソーシャルで日米が関税協議で合意に至ったと発表した。トランプ氏が「史上最大のディール」と呼んだ主な合意内容は、前述した関税率を始め、【チャート1】の通りである。鉄鋼・アルミの関税引き下げのほか為替、防衛費引き上げなどは、合意に含まれなかった。なお、米国と日本の発表内容には適用日を始め、食い違いが存在すると日経新聞は指摘している。
トランプ氏は特に、「自分が指示した」日本による5500億ドル(約80兆円)の投資基金設立を喧伝する。前述したように、ラトニック氏はこれについて、1月に自身が考案したアイデアとした上で「関税引き下げの対価」と説明。日本は「銀行(バンカー)であり、操業者ではない」と述べ、米国内のプロジェクトの選択権、決定権、実行権は米国が持つと断言した。加えて「90%の利益が米国の納税者に、日本には10%が割り当てられる」という。
スコット・ベッセント財務長官も7月23日、同じくブルームバーグ・テレビに出演し、日本の相互関税や自動車・部品の関税率を15%に引き下げた理由として「革新的な資金供給スキームを提供する意思を示したため」と評価した。米国内の大型プロジェクトに対して「出資や信用保証、資金提供を行うという内容だ」という。また今回の合意について、「自民党が選挙で善戦したとはいえ、(与党として)過半数を獲得できなかった。日本政府は合意への準備ができた」とコメント。選挙結果が影響した可能性を示唆していた。
石破茂首相は7月23日に行った会見で、5500億ドルの対米投資について、医薬品や半導体など経済安全保障上、重要な分野において、日米が利益を享受できる強靱なサプライチェーン構築が狙いと語った。日本企業による医薬品、半導体、鉄鋼、造船などの重要分野での対米投資を促進すべく、政府系金融機関、つまり国際協力銀行(JBIC)による出資、融資、並びに日本貿易保険(NEXI)による保証を活用する方針だ。日米合意を取りまとめた赤沢亮正経済再生担当相は、「ジャパン・インベストメント・アメリカ・イニシアティブ」と呼ぶ。
石破氏は、米国との交渉において一貫して「関税より投資」を掲げてきた。日本の対米直接投資額【チャート2】は、2019年から1位を走り続け、2024年には8192億ドル(約120兆円)にまで膨らんでおり、正攻法と言えよう。2月にトランプ氏と日米首脳会談を行った際、対米直接投資を「1兆ドル(約147兆円)」に引き上げる方針を打ち出したことが思い出される。
今回の対米投資額5500億ドルの達成を含め、ベッセント氏は日本が関税合意の内容を順守しているか、四半期ごとに検証すると発言した。仮にトランプ氏が履行に不満をおぼえれば、関税率は7月7日に割り当てられた25%に逆戻りするという。気になる達成までの期間だが、共同通信は日本の政府関係者の発言として、トランプ氏の在任中、つまり3年半を見込むと伝えられた。対米投資5500億ドル到達のハードルは高いようにもみえるが、対米直接投資の金額を踏まえれば、射程距離圏内と受け止められよう。
避けては通れぬ財源問題
しかし、ここで3つの疑問が浮かぶ。
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