自民党総裁選が動き出した。岸田文雄首相が総裁選への不出馬を表明したことで、立候補に意欲を見せる議員が続出、現段階で10人を超える議員の名前が挙がっている。すでに小林鷹之・前経済安全保障担当相、石破茂・元幹事長、河野太郎・デジタル相が正式に出馬を表明し、小泉進次郎・元環境相や林芳正・官房長官なども立候補に動いている。事実上、総理大臣を決める選挙だけに注目度は高い。9月27日投開票で誰が総裁に選ばれることになるのか。
最終的な決定権を握ることになる現職の自民党国会議員たちの「選択基準」は明確だ。特に衆議院議員は2025年秋に任期を迎えるため、それまでに総選挙が実施される。自民党に猛烈な逆風が吹く中で、選挙の「看板」として誰ならば国民の信頼をつなぎとめ、選挙に勝つことができるか。特に、次の総選挙は「派閥」が機能しない前代未聞の選挙になりそうで、議員たちは自らが当選するには誰が有利かを考えることになる。本来は重視されるべき経済政策や外交政策の実行力は、判断基準としては二の次になるに違いない。
政治家個人が企業・団体献金を受け取る「抜け道」
総選挙を乗り切るうえで、何と言っても重要なのは「政治とカネ」に対する国民の疑念を払拭できるかどうかだろう。総裁候補者たちが、改正政治資金規正法にどう対応するかや、先送りされている情報開示ルールにどう踏み込み、実現させていくかを、国民に向けて発信していくことが不可欠になる。当然、メディアでもそこに注目した報道がなされることになる。
既にその前哨戦が始まっている。
東京新聞は立候補の会見に臨んだ小林鷹之氏について〈イメージは「刷新」でも隠せなかった「守旧色」 裏金解明はしない、安倍派復権に配慮〉(8月20日。日付はweb版、以下も)と題した記事を掲載。産経新聞も〈不記載事件で自民・小林鷹之氏「首相、政治的責任果たした」〉(8月19日)とする記事を書いた。派閥の政治資金パーティー収入の不記載事件について、岸田首相の責任を問う質問に対して、小林氏が「総裁選に不出馬との決断をもって、政治的な責任を果たされたと受け止めている」と述べたことや、二階俊博・元幹事長に関しても「次期衆院選に出馬しない決断をもって、一つの政治家としての責任の取り方ではないか」と語ったことを取り上げた。ちなみに小林氏は二階派の所属だった。
一方、朝日新聞は、政治資金規正法改正で、政策活動費を10年後に開示としていることについて、小林氏がテレビ番組で、「国民の感覚からすると、10年後はあり得ない。総裁に就任したら相当短縮したい。2〜3年ぐらいのスパンでやらないと国民の理解は到底得られない」と語ったことを報じている。今後、各候補者が、政治資金規正法についてどんな意見を述べるのか、立候補記者会見のたびに記者からの質問が殺到することになるだろう。
さらに、候補者各議員のカネについても追及が始まるのは確実だ。すでに週刊誌メディアは、小泉進次郎氏について〈地盤、看板、カバンを全て引き継いだ「究極の世襲政治家」〉(デイリー新朝、8月23日)とする記事を掲載、「無税の「政治資金5000万円」を父から“贈与”」された点に改めて焦点を当てている。
父である純一郎氏が引退した後、「自民党神奈川県第11選挙区支部」の代表を引き継ぎ、そこに残されていた5163万円を受け継いでいたことを言っているのだ。
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