元総理を父に持ち、菅義偉前総理のバックアップも受ける小泉進次郎元環境大臣に、次期総裁選への出馬が取り沙汰され始めた。待望論の背後にあるのは、党の現状に危機感を抱き世代交代を模索する若手議員らの動きだ。ただしその若手も一枚岩ではなく、旧安倍派を中心に、よりタカ派的な候補として小林鷹之前経済安全保障担当大臣を推すグループも存在する。
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8月2日、総理官邸に“珍客”がやってきた。当人は岸田文雄総理(67)との面会後、報道陣の囲み取材に応じた。
「先進国首脳会議やG7、世界の多くの問題は正解がない問題。ところが日本の政治家は正解のない問題にチャレンジする教育を全く受けていない。ここを基本的に変えなくてはいけない(と総理に進言した)」
自分の孫よりも若いであろう記者たちに語りかけるように説明したのは、齢90を過ぎても現役で活動するベテランジャーナリスト、田原総一朗だ。岸田総理に対して主権者教育や日米の安全保障体制の大切さを説いたと明らかにした田原は、帰り際、自民党の総裁選に関して意味深な発言をした。
田原「小泉純一郎さんは、『本人(進次郎)がやると言ったら反対しない』と」
これは、田原が数週間前、小泉元総理(82)や森喜朗元総理(87)、中川秀直元自民党幹事長(80)らと会合をした時に小泉本人から聞いた話だということだ。
■父・純一郎もついにGOサイン?
9月に行われる予定の自民党総裁選挙で、その去就が注目される政治家の1人に小泉進次郎元環境大臣(43)がいる。石破茂元自民党幹事長(67)や河野太郎デジタル大臣(61)と並んで、世論調査で常に「次の総理にふさわしい政治家」上位にノミネートされる進次郎だが、出馬するにあたって大きなネックと見なされていたのが父・純一郎の存在だった。
純一郎はこれまで、進次郎の総裁選出馬には否定的な姿勢を見せてきた。今年5月にかつての盟友・山崎拓元自民党幹事長(87)らと会合を持った時にも、進次郎を総裁選に出さないと語ったという。
山崎「進次郎さんに関しては、50歳になるまでは(総裁選に)出さない。次の総理を助ける役割を数年続けなさいと諭してある、ということを小泉さんは言われました」
自分の思惑も含めて面白おかしく、創作的なブリーフを行うことで知られる山崎の説明であることから、果たして小泉がそこまではっきりと言ったのかについては疑問が残るが、純一郎が進次郎の出馬に積極的でないことは確かである。
その純一郎が態度を軟化させたということであれば、いよいよ進次郎は総裁選に向けて本格始動するのではないか。そんな見方が政界には広がっている。
しかし、当の進次郎は表向き政局的な動きを控え、地元回りに精力的だ。
進次郎「中小企業が世界展開という時代に入ってきているので、そのための課題をわれわれ政治が受け止めて解決していくこと。このことが幅広く中小企業の皆さんにとって前向きな政策になると思う」(7月29日)
他の神奈川選出議員と共に、国際競争力のある中小企業を視察したほか、選挙区のある横須賀を中心とした三浦半島の幹線道路の充実を求める会合に出席するなど、永田町の動きとは一線を画している様にも受け取れる。
しかし、進次郎と定期的に連絡を取り合っている関係者はこう断言する。
関係者「進次郎さんはおそらく(総裁選に)出ると思う。いまはそのための環境整備を行いたくて目立った動きを控えているのではないか」
「世代交代」を目指し動き出す若手議員たち
次の総裁選挙は自民党と所属議員にとっては運命を左右するものになるだろう。 岸田の評判が決定的に悪いだけでなく、去年秋に表面化した安倍派などの裏金問題で自民党そのもののイメージが地に落ちた。最近も、過去5年間で2000万円以上の裏金を受け取っていた堀井学衆院議員の公職選挙違反事件や、公設秘書給与の詐取疑惑で強制捜査を受けた広瀬めぐみ参院議員の事件が次々に表面化して、“カネに汚い自民党”のイメージはさらに強まっている。
自民党若手議員「総裁選で刷新感を出さなければ党は本当に終わってしまう」 こうした声は党内で確実に広がってきている。
つまり岸田はもちろん「ノー」だが、この際、茂木敏充幹事長(68)や石破などのベテランではなく、「世代交代」の名の下に一気に総裁や幹部らの若返りを図るべきだという動きが、水面下で始まっている。
ある自民党関係者は、現状に危機感を持つ若手が幾つかのグループになって総裁候補の擁立に動き出したと話す。そうした候補の1人となっているのが進次郎だというのだ。
進次郎当人も少人数の若手議員らと接触をはかり始めた。周囲には「決断するときは自分1人で決める」と漏らすなど、明らかに総裁選に向けてハラは固めつつあると見て良い状況だ。
もし進次郎が立つとなれば、これまで後見人的な立場であった菅義偉前総理(75)は支持に回るだろうし、「菅グループ」と呼ばれる議員らも大方は支持するだろう。知名度もあり、バックアップ体制も強固となれば、進次郎の総裁就任も現実味を帯びることになる。
タカ派のホープとしての「コバホーク」
しかし、不確定要素も多い。永田町では現状、“進次郎待望論”が必ずしも大勢とは言えない状況なのだ。強力なライバルが出現しつつあるのが、その大きな理由だ。
自民党関係者「いま若手議員の間で総裁候補として名前が挙がっているのは2人です。一人は進次郎さん、もう一人は、前の経済安全保障担当大臣の小林鷹之議員です」
小林鷹之は2012年に自民党が政権を奪還した衆院選挙で初当選した。まだ49歳で本人も若手の部類に属するが、経済安全保障や外交、防衛などの分野における政策通として知られ、党内きってのホープと見なされている。
派閥は二階派に所属していたが、3年前の総裁選では故・安倍晋三元総理が推した高市早苗現経済安全保障担当大臣(63)の推薦人になるなど政治理念としては「右寄り」、もしくは「タカ派」的な性格が強い。このため若手議員の中でも特に旧安倍派の支持が集まっている。この他、経済安全保障政策に力を入れる甘利明前自民党幹事長(74)らも小林の支持に回る可能性がある。
名前をモジって自民党内では「コバホーク(鷹のHAWKから)」と呼ばれる小林について、別の自民党関係者は総裁選で台風の目となり得ると見ている。
自民党関係者「(小林は)若手で手垢がついていない分だけ、(出馬すれば)党が変わったというイメージは強くなる。後は知名度が短期間でどれぐらい広がるかだね」
自民党議員「コバホークと進次郎が揃って出たら、どっちを推すか悩むね」
進次郎サイドにとっては若手が一致して推してくれることが理想なのだろうが、すでに安倍派の若手を中心に小林への支持が広がりつつあり、そういった構図が描けない可能性がある。むしろ旧安倍派の若手がこぞって小林を推すことになれば、それに追随する議員も出てくるであろう。進次郎vs.コバホークのどちらが若手の支持を集めるか。場合によっては拮抗することも予想される。
小林自身、報道陣の取材に対して「いつかは国の舵取りを担えるような立場になりたいと。そういう人間になれればということで日々研鑽を積んでいる」と意欲を隠さないため、進次郎を支持するグループも警戒を強めている。
筆者は、進次郎と小林両人の動きが表面化するのは今月下旬以降と予測する。いまは両陣営とも、立候補に必要な推薦人の確保や目玉政策をどうするかといった“弾込め”に専念している時期であろう。
思わぬ同世代の強敵の出現――。かつて高校球児だった進次郎は、この「熱い夏」をどう乗り切るのか。 (敬称略)