
3月13日深夜、石破茂総理大臣の居住スペースがある総理公邸は常にない緊張感に包まれていた。取り巻く記者団に笑みを浮かべながらマイクの前に立った石破は、手に取ったノートに目をやりながら滔々とコメントを読み上げた。
石破「3月3日に当選1回の衆院議員と会食をしたが、それに先立ち出席議員の事務所に商品券をお届けしました。これは会食のお土産代わりにご家族へのねぎらいの観点から私のポケットマネーで用意したものであります」
石破が自民党の1回生議員らに10万円相当の商品券を配布したというニュースは、13日夜、ほとんどの新聞(ネットで)・テレビが報じた。その火消しのため石破は異例といえる深夜の緊急会見を開いたのだ。石破は「法律に触れるものではない」ことを繰り返し強調した。
「石破おまえもか」
しかし、裏金事件で攻められ続けている自民党の総裁として、10万円相当もの商品券を配ったという行為そのものが常識外れ、軽率のそしりは免れないだろう。ただ、筆者がそれ以上に総理の資質に疑問を感じたのは会見での記者との次のやりとりだった。
記者「政治資金規正法に抵触しないと考えているのか?」
石破「第何条のどの趣旨をおっしゃっているのか」
記者「……」
(略)
石破「どうぞおっしゃって下さい。法律上の解釈をおっしゃっておられますので」
(ほかの記者とのやりとりの後)
記者「(規正法の)21条の2項の政治活動の部分に抵触すると思うのですが」
(略)
石破「これは政治活動ではございません」
規正法の条文を頭に入れず法律に反するかどうかを質問する記者の未熟さも確かに痛いが、石破の執拗に条文解釈を詰めていくようなやりとりは、率直に言って総理の答弁としてはなはだ未熟だ。求められていたのは法に触れるかどうかではなく、世論の信頼を裏切ったことへの謝罪と反省ではないのか。
会見を聞き終えた後、石破が閣僚をしていた当時仕えた人物が発した“石破評”を思い出した。
「石破さんは法案作成などの細かい作業にはいろいろ口を差し挟んでくるのだが、いざ自分が責任を取る局面になると逃げ出すところがある。大将の器ではない」
いまの政治とカネを巡る世論の政府・自民党への厳しい視線の中、総理大臣、そして自民党の総裁として10万円相当の商品券を所属議員に配ることが、どういったハレーションを引き起こすか。そういった予測や判断ができなかったのか。
ある政界関係者は「石破さんが少数与党でもなんとか半年近く持ったのは、石破さん本人はカネにきれいだという印象を多くの世論が抱いていたから。そのイメージがこの商品券の話で一気に崩壊する。“石破おまえもか”という風になると支持率も一気に下落して、これまで静観していた反石破勢力が本格的に動き出すことになりかねない」と分析する。
自民党青山繁晴参院議員「(商品券の問題で)まずは予算が上がらなくなってしまう。日本の総理として自ら(進退を)決すべきだと思う」(3月14日)
自民党内の“石破降ろし”はすでに顕在化しており、その火元は現在参議院が中心だ。予算成立と引き替えに石破に退陣を求める青山の他、同じく参院議員の西田昌司が予算成立後に自民党総裁選を行い、新総裁の下で参院選を戦うことを主張している。
しかし、青山・西田クラスだけが騒いでも党内の流れを形作ることはできない。
自民関係者「西田さんは自分が戦う夏の参院選(京都選挙区)が厳しいから、“反石破”で目立つ狙いもある。参院で固まって石破降ろしという空気は今のところない」
都議選・参院選前に内輪もめという印象を世論に与えてしまう悪影響を懸念する声もあり、当面は様子見という雰囲気が大勢のようだ。反石破のキーマンと見なされる麻生太郎前副総裁や、旧安倍派を束ねる萩生田光一元政調会長の今後の動きが焦点となる。
立憲民主は自民より国民民主を警戒
一方、野党側はどう見ているのか。

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