
いま、政界で一枚のポスターが物議を醸している。それは黒をベースにして中心部分に赤字のアルファベットで「THE MATCH」と書かれている。その文字の周りには大小様々の26人の男たちの顔が並べられている。
来月12日告示、27日に投開票が決まった自民党総裁選のポスターだ。「赤と黒」の極端な二色の色づけに加え、歴代26人の党総裁の顔写真を並べたこのポスターについては「前衛的」「醜悪」など賛否が分かれるが、いずれにせよ自民党にとっては浮沈をかけた戦いが始まった。
岸田首相「自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は、私が身を引くことであります」(8月14日)
ほとんどの政界関係者にとってサプライズだった岸田文雄首相の総裁選不出馬表明。当日の朝、岸田は自民党の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長ら党幹部らに「不出馬」の考えを電話で伝えた。関係者によれば、前日の段階で不出馬を知っていたのは最側近の木原誠二幹事長代理や嶋田隆総理秘書官ら「ごくごく一握り」だったという。
「岸田さんが“総裁選に出ません”と言うのは今月末くらいじゃないかと思っていたんだが、2週間早まった感じだ」(自民党議員)
なぜ、大方の予想よりも早い段階で岸田は総裁選不出馬=退陣表明をしたのか。自民党関係者は、岸田は出処進退を速やかにすることで総裁選を活性化させる狙いがあったと分析する。退陣表明の翌日の閣議の後、岸田は居並ぶ大臣たちにこう言った。
岸田「大臣の皆さんの中には総裁選に名乗りを上げることを考えている方もいると思う。
お気兼ねなく、閣僚としての職務に支障のない範囲で、堂々と論戦を行ってほしい」
総裁選を活性化させることで「裏金や秘書給与詐取」などダーティイメージにまみれた党の印象を刷新させ、あわよくば退陣後も一定の影響力を持ちたい。そんなところが岸田の本音だったのかもしれない。いずれにしても、岸田の不出馬表明により総裁選を巡る動きは一気に流動化した。
小林鷹之の背後に福田達夫、甘利明
小泉進次郎元環境大臣や小林鷹之前経済安保担当大臣らを推すグループは、推薦人20人を獲得するためすかさず動いた。出馬に慎重と思われていた上川陽子外務大臣も総裁選に挑戦する意向を岸田に伝えたことをSNSで明らかにしたほか、加藤勝信元官房長官も出馬に意欲を示した。この他、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル大臣、茂木敏充幹事長、高市早苗経済安保担当大臣らを加えると、およそ10人が出馬するかつてない人数での総裁選となる可能性が高まってきた。
彼らのうち本命候補や対抗馬、ダークホースは誰になるのか? 自民党関係者は「まだ不確定要素が多すぎる」と前置きした上で、注目される候補は小泉、石破、小林の3人だと指摘する。
自民関係者「小泉は知名度があり43歳という若さも党刷新のイメージに適う。石破はこれまでさんざん冷や飯を食わされてきたにもかかわらず、いまだ世論調査で人気が高い。選挙に弱い議員や地方票を多く獲得することになるかもしれない。小林は未知数の部分が魅力となる可能性が高い」
この3人のうちでいち早く出馬表明に踏み切ったのは小林だった。
小林「私は脱派閥選挙をこの総裁選で徹底します。旧派閥に対する支援は一切求めません」

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