SBI新生銀行の公的資金返済に向けたシナリオに想定外の事態が加わった。同行は、SBIホールディングス(HD)による2度のTOB(株式公開買い付け)を経て、9月28日に上場廃止に至っている。上場廃止の真の狙いは、同行に残る約3500億円の公的資金を完済すること。だが、旧村上ファンド系のエスグラントコーポレーションが上場廃止直前に同行の株式を大量に購入したことで、そのシナリオに狂いが生じている。同時に、SBIHDの北尾吉孝CEOと、エスグラントの実質支配者である村上世彰氏との虚々実々の戦いの火蓋が切られた。
10月2日、SBI新生銀行は9月1日の臨時株主総会で承認された株式併合を予定通りに実施した。発行済み株式2000万株を1株に併合し、2000万株未満の「端株」はTOB価格と同額の1株2800円で強制的に買い取る(スクイーズアウト)。これにより同行の発行済み株式総数は10株となり、公的資金を注入している預金保険機構と整理回収機構が1株ずつを持ち、残り8株はSBIHDの完全子会社であるSBI地銀HDが持つはずだった。
ところが、SBI新生銀行が提出した臨時報告書には、旧村上ファンド系の投資会社であるエスグラントコーポレーションが1株を所有していることが記載されている。上場廃止を間近に控えた9月21日に、市場外取引において1855万株を1株当たり2800円で追加取得し、計2000万株を保有していたためだ。エスグラントがこのタイミングでSBI新生銀行の株式取得に動いたのは、公的資金の返済に乗じて巨額の投資リターンを得られると踏んだからだ。
優先株式から配当を得る第1のシナリオ
すでに普通株式に転換されている同行の公的資金は、特別公的管理が行われた経緯から「回収目標額」が定められており、長年にわたってその残額である3494億円が塩漬け状態になっている。理由は、回収目標額の株価(7450円)と、その3割程度で推移してきた市場価格との開きが大きく、株価を返済可能な水準にまで引き上げることが困難だったためだ。
ところが、株式の非上場化と併合によって少数株主がいなくなり、議決権の大部分をSBI地銀HDが握ったいま、公的資金返済の蓋然性が高まっている。実際、同行は2025年6月末までに返済スキームについて国と合意を目指すとしている。
想定される返済スキームは、まず株主総会の特別決議を経て預金保険機構と整理回収機構に優先株式を無償で割り当て、あおぞら銀行がかつて公的資金返済に用いた「特別優先配当」をこの2者に実施することで、毎年一定額を返済するプランだ。預金保険機構が保有していた2691万株のうち、端株となる691万株は1株2800円で強制的に買い取られるため、この端株買い取り分の193億5608万円を差し引いた3300億円(回収目標額の残額)を、特別優先配当によって毎年コツコツと返済する可能性が高い。
その際、同様に1株を保有するエスグラントにも「株主平等」の観点から優先株式を割り当てて、特別優先配当を実施することは想定できなくはない。そうなれば、エスグランドには政府系株主の持つ2株が生む配当金の半額、つまり総額1650億円が配当金として支払われることになる。エスグラントが同行の株式取得に費やした金額は560億円だから、差し引き1090億円もの投資利益を得られる計算だ。
カギを握る少数株主の動向
だが、金融マーケットの酸いも甘いもかみ分けてきたSBIHDの北尾吉孝CEOが、そうやすやすとエスグラントにこれほどの巨額資金を支払うとは思えない。そもそもエスグラントにまで優先株式を割り当てて特別優先配当を行えば……
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