【再掲】体制派か、変革者か――自叙伝からカマラ・ハリスを読み解く

執筆者:三牧聖子 2024年7月22日
エリア: 北米
どのような形で存在感を示すのか (C)AFP=時事
バイデン大統領撤退で、民主党の次期大統領候補に有力視されるカマラ・ハリス氏。黒人女性初の副大統として注目を集めた一方で、彼女の政治家としての立ち位置や存在感は今ひとつ見えにくい。その理由を、自叙伝を中心に分析する。【この記事は2021年7月16日付の再掲載です】

 

※この記事は2021年7月16日付の再掲載です
 2020年大統領選挙の結果、カマラ・ハリスは、黒人、アジア系、そして女性として初のアメリカ合衆国副大統領となった。つい最近邦訳された『私たちの真実 アメリカン・ジャーニー』(光文社、藤田美菜子・安藤貴子訳)は、2024年大統領選における有力な大統領候補とも目されるハリスの初の自伝である(原著“The Truths We Hold: An American Journey”は2019年1月刊)。政策的な提言も豊富に展開されている。

挫折から始まった検事のキャリア

 

 ハリスは1964年、カリフォルニア州オークランドでインド系の母シャマラ・ゴパランとジャマイカ系の父ドナルド・ハリスの間に生まれた。母はがん研究者で、父は経済学教授というエリート家系の出身だ。幼い頃は黒人バプテスト教会とヒンドゥー教寺院の両方に通い、多様な文化や宗教を経験しながら育った。第44代米大統領バラク・オバマを彷彿とさせるコスモポリタンな生い立ちだ。

 7歳のとき両親が離婚し、以降は妹マヤとともに母親に育てられた。名門黒人大学のハワード大学、カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールを卒業し、司法試験に合格。2004年、サンフランシスコ市郡地方検事となった。

 検事の仕事は犯罪者を刑務所に入れることまでだという考えがいまだ根強い中、元犯罪者の社会復帰プログラム「バック・オン・トラック」の作成に取り組んだ。「バック・オン・トラック」は、職業訓練、GED(高卒認定試験)コース、社会奉仕活動、薬物治療などを盛り込んだ包括的なプログラムとして着実に成果を挙げ、オバマ政権下の司法省によって全米のモデルプログラムにも選出された。

 2011年には、カリフォルニア州で黒人女性として初の司法長官に就任。サブプライム住宅ローン問題で多くの人々の自宅が差し押さえられると、大手銀行と対決して労働者世帯のために歴史的和解を勝ち取った。また、多くの裁判で死刑求刑を拒否したことでも有名となった。

 以降のキャリアも「初」の連続である。2016年、黒人女性としてカリフォルニア州では初、全米では史上2人目の上院議員に当選し、与党共和党を鋭く追及する論客として頭角を現していく。そして2019年、民主党の大統領候補の指名争いから撤退しつつも、ジョー・バイデン民主党大統領候補から副大統領候補に抜擢され、2021年、女性初、黒人初、アジア系初のアメリカ副大統領に就任した。

 このような経歴を聞くとスーパーウーマンのように思えてしまうが、本書でハリスは、挫折や、働く女性の悩みについても赤裸々に語っている。ロースクールを修了し、検事を目指していたハリスは、最初の司法試験に失敗してしまう

カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
三牧聖子(みまきせいこ) 同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授。国際関係論、外交史、平和研究、アメリカ研究。東京大学教養学部卒、同大大学院総合文化研究科で博士号取得(学術)。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学助手、米国ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学研究員、高崎経済大学准教授等を経て2022年より現職。2019年より『朝日新聞』論壇委員も務める。著書に『戦争違法化運動の時代-「危機の20年」のアメリカ国際関係思想』(名古屋大学出版会、2014年、アメリカ学会清水博賞)、『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』(集英社新書)、『日本は本当に戦争に備えるのですか?:虚構の「有事」と真のリスク』(大月書店)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書) など、共訳・解説に『リベラリズムー失われた歴史と現在』(ヘレナ・ローゼンブラット著、青土社)。
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