「お前の体、俺の選択」――トランプがリーチした「マノスフィア」のZ世代男性

執筆者:三牧聖子 2024年11月22日
エリア: 北米
CIRCLE(タフツ大学)の分析によれば、今回の大統領選でZ世代女性は17ポイント差でハリスを支持したが、Z世代男性は14ポイント差でトランプを支持した[2024年8月30日、ペンシルベニア州ジョンズタウン](C)AFP=時事
Z世代は2020年の米大統領選で民主党候補バイデンに大きな力をもたらした。アメリカ史上、人種的に最も多様な世代の人々は、BLM運動を支持したバイデンを歓呼でホワイトハウスに送ったのだ。あれから4年、バイデン以上に多様性を象徴したハリスはなぜ負けたか。若年男性が中絶の権利やジェンダー平等について急速に消極化しつつあることが注目される。共和党はトランプの息子、バロンも熱中する男性中心の視聴者を持ったネットインフルエンサーたちの言説領域、「マノスフィア(man+sphereの造語)」を巧みに掴んだ。大統領選で浮彫りになったジェンダー平等をめぐるZ世代の分断を捉える。

 アメリカ大統領選は、共和党候補ドナルド・トランプが民主党候補カマラ・ハリスに勝利した。接戦となると見込まれていた激戦7州のすべてで勝利し、総獲得数でもハリスに200万超の差をつけた。

 今回の選挙でトランプは、民主党の伝統的な支持層を切り崩した。2016年大統領選でトランプの主要な支持層は白人労働者だったが、今回トランプは白人票を固めた上で、ヒスパニック系やアジア系、黒人などマイノリティの労働者の支持を広げた。とりわけヒスパニック系のトランプへの投票率は4割超に及び、5割超のハリスに迫る勢いだった1 。さらに今回共和党が新たな票田として発見することになったのは、Z世代(1990年代半ばから2010年代序盤生まれ)だ。

男女の支持候補に差異

 Z世代はアメリカ史上、人種的に最も多様な世代だ。上世代に比べ、気候変動や人権問題に関心を持ち、政治的な立場としては「リベラル」を自認し、共和党よりも民主党を支持する割合が高いと指摘されてきた2。2020年、アメリカ国内で人種平等を求めるブラック・ライブズ・マター運動(Black Lives Matter:BLM運動)が広がる中で行われた大統領選では、BLM運動への支持を鮮明にした民主党のジョー・バイデンは、Z世代の圧倒的な支持を獲得。2020年大統領選後の出口調査によれば、この年代の支持率でトランプに25ポイントもの大差をつけた。

 今回の大統領選に挑戦したハリスはインド出身の母とジャマイカ出身の父を持つ、多様性を象徴するような存在だ。上院議員時代(2017-2021)や2020年の大統領選の民主党候補予備選に挑戦した際には、野心的な気候変動対策を掲げたことでも知られており、性的マイノリティの擁護も長年の持論だ。このたびの大統領選に勝利すればアメリカ初の黒人女性・アジア系の大統領として歴史を拓くはずだった。当初、ハリスは、Z世代の圧倒的な支持を得ると予想されていた。

 しかし、この予想は覆された。若年層の投票行動や政治活動に関する研究機関CIRCLE(タフツ大学)の分析によれば、今回の大統領選でZ世代は、全体としてはトランプよりハリスを支持したが、その差はわずか4ポイントだった。さらに今回の大統領選を特徴づけたのは、男女の支持候補の差異だった。Z世代女性は17ポイント差でハリスを支持したが、Z世代男性は14ポイント差でトランプを支持した3

マノスフィア(manosphere)を利用したトランプ

 これはトランプ陣営の狙い通りの結果だった。このたびの選挙戦で、トランプ陣営は男性、とりわけ、「兄弟票(Bro Vote)」と呼ばれる、オンライン上で多くの時間を過ごす、政治に無関心な若い男性を動員し、彼らの票を取り込むための選挙戦略を精力的に展開してきた4

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
三牧聖子(みまきせいこ) 同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授。国際関係論、外交史、平和研究、アメリカ研究。東京大学教養学部卒、同大大学院総合文化研究科で博士号取得(学術)。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学助手、米国ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学研究員、高崎経済大学准教授等を経て2022年より現職。2019年より『朝日新聞』論壇委員も務める。著書に『戦争違法化運動の時代-「危機の20年」のアメリカ国際関係思想』(名古屋大学出版会、2014年、アメリカ学会清水博賞)、『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』(集英社新書)、『日本は本当に戦争に備えるのですか?:虚構の「有事」と真のリスク』(大月書店)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書) など、共訳・解説に『リベラリズムー失われた歴史と現在』(ヘレナ・ローゼンブラット著、青土社)。
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