「令和のブラックマンデー」を経ても懸念の本丸は「米国経済」――なのにジャクソンホール会議に日銀総裁出席できず
8月23日(金)、世界の市場関係者の視線は、米国ワイオミング州のジャクソンホールに集まる。米連邦準備理事会(FRB)傘下のカンザスシティ連銀が毎年この時期に開く年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で、ジェローム・パウエルFRB議長が基調講演をするからだ。
米経済は無事、ソフトランディング(軟着陸)できるのか。7月以降、米国をはじめ世界の金融・株式市場は乱気流に巻き込まれている。日本とて例外ではなく、7月31日の日銀の利上げを機に、8月5日の株式市場は令和のブラックマンデーに見舞われた。
暴落翌日には買い越しに転じた外国人投資家
そこでまず令和のブラックマンデーで、日本経済や金融・株式市場をめぐる構図が変わったのかどうか、を確認しておくべきだろう。結論は簡単だ。何も変わっていない。
8月5日に日経平均株価は、1987年10月19日のブランクマンデー(米国株の暴落)の翌20日の下げ幅をも凌駕する、史上最大の下落幅を記録した。「円売り・株買い」の取引で損失を被った外国人投資家が、背中の薪に火の付いたカチカチ山の狸のような状態となり、取引を解消するために「円買い・株売り」に殺到した。
その結果、円相場は1ドル=141円台に急騰し、日経平均は3万1000円台に急落した。円は7月11日の直近の安値から約20円跳ね上がり、日経平均は同じく7月11日の最高値から約1万1000円下落した。「円安・株高」はゲームオーバーとなり、外国勢は日本株投資などもうこりごりとなった――はずだった。
ところが8月16日、日本の財務省が狐につままれたようなデータを発表した。8月5~9日の週には、外国人投資家による対日株式投資が5000億円あまり買い越していたのだ。株式投資には売りもあれば、買いもある。その週は外国勢の売りが31兆3395億円、買いが31兆8613億円と、ともに記録的な高水準となり、差し引き5219億円の買い越しとなった。
外国人投資家はさすがに8月5日には日本株を売り越したが、8月6~9日は買い越しに転じた。機を見るに敏な手のひら返しがみてとれる。株価が暴落すれば、日本株を割安に買うことが出来る。問題は企業の業績や金利環境、景気見通しが劇的に変化したかどうかだが、そんなことはないと外国勢は見極めた。
日銀が火消しに動いたことも大きい。「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」。日銀の内田真一副総裁は8月7日、函館での講演でこう明言した。市場のリスク回避のための保険をプットオプションというが、それをもじって言えば影響力を持つ副総裁が「内田プット」を繰り出したのである。
「円キャリー×レバレッジ×円高転換」で何が起きるか
8月の金融・株式市場の嵐は日本ばかりの責任ではない。「サーム・ルール(Sahm rule)」。米国の失業率に関するこの物差しこそ、市場に弱気の虫を広げた最たるものだろう。これはFRBのエコノミストだったクローディア・サーム氏が唱えたルールで、
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