政府「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」に3つの根本的欠陥

ハコモノからユニコーンは生まれるのか?[グローバル・スタートアップ・キャンパス構想を紹介する広報動画の一場面](C)内閣府
東京・恵比寿駅近くの広大な一等地に新しいキャンパスを建設し、国内外から優秀な研究者を呼び寄せる——。内閣官房が旗を振る「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」は、世界に通用するスタートアップを生むエコシステム創出を謳っている。だが、コンセプトそのものに欠陥がある。研究開発の成果と商業的な成功の間のギャップを、誰が、どのようにして埋めるのか。公金を含む巨額の資金を差配する仲介者としてのガバナンスは十分なのか。これらを解決しない限り、単なるハコモノ作りに終わるだろう。

岸田内閣の「新しい資本主義」プロジェクトは再検討が必要

 日本は戦後、製造業で華々しい成功を収めたが、1980年代に生まれたインターネット関連産業では同じような成功を収めることはできなかった。この失敗は、過去30年間続く日本経済衰退の大きな要因となっている。松下(現パナソニック)、ソニー、ホンダを輩出した日本だが、独自のアップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン、メタ(フェイスブック)を生み出すことができなかった。アップルのiPodではなく、ソニーのウォークマンがiPhoneに進化しなかったことは悔しい。

 インターネット関連産業における日本の低迷は、日本経済にとって悩みの種である。なぜ日本には、シリコンバレーをシリコンバレーたらしめている要素、つまりグローバルに通用するイノベーション・エコシステムがないのだろうか? 日本のビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾスはどこにいるのだろうか? 最先端技術を創造し、商業化に成功することで億万長者になった教授や大学院生がいるマサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学のような大学は、日本のどこにあるのだろうか? リスクの高い新興企業に何十億ドルもの資金を調達するベンチャーキャピタルはどこにあるのだろうか?

 岸田文雄内閣の「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」(GSC)は、過去3年間にわたり、こうした難問の解決策を模索してきた。公表されている有識者による検討会議の記録から判断する限り、「新しい資本主義」の重要な要素であるGSCの野心的な目標は、日本にボストンのケンダルスクエアーやシリコンバレーのエコシステムを再現することであり、日本におけるディープテックに基づく「ユニコーン」、つまり短期間に10億ドル以上の時価総額を達成する新興企業を育成することである。これまでのところ、日本のユニコーンは10社程度にとどまっている。さらに、日本のユニコーンは、個々でも全体でも、米国、中国、EU(欧州連合)、インドのユニコーンに比べてはるかに小さい。

 岸田内閣が幕を下ろした現在、GSCはまだ計画段階で、具体的な形も実績もない。 また、有識者会議の資料にはその具体的なロードマップは記されていない。しかし、現時点での設計では、日本のユニコーンを増やすという目標を達成できそうにないことは、あまりにも明らかである。石破茂新政権は、GSCを厳しく見直し、世界に対して大恥をかかないように再検討すべきだ。

コンセプトそのものに3つの誤解

 GSCのコンセプトは、少なくとも3つの誤解の上に成り立っている。

 第一に、GSCという名称自体に表れているように、外国人研究者と日本人研究者が同居するための物理的な新キャンパスを、都内一等地に設立することが必要だという前提がある。ビデオ会議技術が物理的な「場所」を無意味で時代遅れのものにしつつある今、常勤の研究者が居住するキャンパスをプロジェクトの中心に据えるのは根本的な間違いであり、税金の無駄遣いである。もし研究者あるいはポスドクレベルの若い研究統括者が物理的に東京の一等地に集まることが必要と考えるのであれば、その根拠を明示すべきである。

 2つ目の基本的欠陥は、GSCの使命が商業的に成功する日本の新興企業を育成することであるにもかかわらず、研究資金提供プロジェクトとして設計されていることだ。

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執筆者プロフィール
スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens) ニューヨーク州弁護士。1954年生まれ。東京育ち。米ハーバード大ロースクール修了。日本企業が関わる国際取引に長年従事し、1987年以降は東京を拠点に活動する。青山学院大や上智大の専任教授を歴任。
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