1995年のWindows95の発売から数えれば、インターネットが世界に普及して約30年が経つ。インターネットの登場は社会に不可逆的な変化をもたらした。とりわけ中国は、世界各国で最もその影響が大きかった国のひとつだろう。
2024年現在、中国のネット普及率は78%で、日本の86.2%と大きく変わらない。ネット未使用者の多くは、高齢者や子ども、もしくは極度の貧困層であると考えられ、一般的な現役世代の人々は誰もがネットに親しんでいる。
現代中国人のネット使用用途の多くは、WeChat(LINEに似たチャットソフト)と、抖音(TikTokの中国国内向けサービス)のようなショート動画の視聴だ。日本におけるショート動画は若者中心のカルチャーだが、中国のショート動画利用者数はネット利用者の総数とイコールに近いとするデータが出ており、老若男女を問わず幅広く普及している。
中国人のスマホ依存は日本以上に深刻で、食事中や運転中、家族団欒の時間などでもWeChatやショート動画視聴をやめない人が多く、社会問題として認識されて久しい。また、ショート動画はデマや陰謀論まがいのものも多く、今年 9月に広東省深圳市で起きた日本人学校児童の刺殺事件の背景でも、「日本人学校はスパイの巣窟」などの内容の反日動画が規制なく溢れていたことが日本側の外務筋などから指摘されている。
月間アクティブユーザー数が13.43億人におよぶWeChatのユーザーデータが、公安当局と共有されているのも公然の秘密だ。たとえ仲間内のチャットグループであれ、政治的に敏感な発言をすれば当局の警戒対象になってしまう(たとえば、X上で活動する有名な反体制中国人アカウント「李老師不是你老師」@whyyoutouzhele に言及しただけで自宅に公安がやってくるなど)。中国におけるインターネットは、社会のスマート化を促進して劇的に利便性を向上させた部分もあるが、スマホ中毒やショート動画中毒の続出、当局によるデジタル監視体制の出現など負の面も大きい。
なお、中国社会の急速な変貌は典型的なリープフロッグ現象(蛙跳び現象。発展途上国の社会がいきなり最新の技術に到達する現象)だ。かつて2000年時点で、中国のネット普及率はわずか1.78%(日本は29.99%)、2005年でも8.52%(日本は66.92%)にとどまっていた。現在とのあまりの違いに改めて驚かされる。
2000年代初頭、中国におけるインターネットは限られたエリート層のみが利用するものだった。当時、そうした彼らの言論のプラットフォームになっていたのが、インターネット掲示板(BBS)である。
2000年代前半のBBSでは何が語られたか
今年11月17日付で、ネットニュースサイト『文学城』におもしろい論考が掲載されていた。題名は「論壇、BBS,抱團、吵架……那些網絡共同記憶,拼上了文學版圖缺失的一片」。和訳すると「ネット論壇・BBS・馴れ合い村・ネットバトル……ネットの共通記憶たちが文学の世界の欠けたピースを埋める」といった意味だ。
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