トランプ大統領の発言とアクション(6月5日~6月11日):米中閣僚協議で鮮明になった「MAA(相互確証型のいさかい)」戦略

「スモールヤード・ハイフェンス」からの転換
米中閣僚協議を終えて6月11日に米経済・金融TV局CNBCのインタビューに応じたハワード・ラトニック商務長官は、「トランプ政権は昼夜を問わず働いている」と誇らしげに語った。2回目の米中閣僚協議は「9日は10時間、10日は14時間にわたって協議した」といい、緊密に協議した様子が窺える。
ラトニック氏は、米中が貿易枠組みで合意したと説明、「両国は非常に良好な関係にある」と振り返った。しかし、インタビュー内容を振り返ると、閣僚協議のテーマが関税から輸出規制の緩和へシフトし、トランプ政権がバイデン前政権の「小さな庭を高い塀で囲む(Small Yard High Fence、SYHF)」戦略から転換したことが明確になっている。
SYHFとは、貿易戦争から中国動画アプリTikTokの使用禁止など、中国と全面的な「デカップリング」を目指したトランプ政権1期目の政策から脱却し、テクノロジー分野で譲れない最先端分野に絞って対抗していく戦略への転換を表したものだ。この言葉は、第一次トランプ政権が中国に追加関税を課し始めた2018年頃から、外交問題評議会(CFR)や戦略国際問題研究所(CSIS)などの有力シンクタンクを中心に、使用されるようになった。かつてブッシュ(子)政権とオバマ政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏が生みの親とされ、それをジョー・バイデン前大統領の弟分的な存在であるクリス・クーンズ上院議員(デラウェア州、副大統領就任のため上院議員を辞職したバイデン氏の議席を引き継いだ)などが取り上げるようになり、徐々に浸透していった言葉である。
対してトランプ政権2期目は、スコット・ベッセント財務長官が6月1日付のCBSインタビューで明言したように、中国とデカップリングではなく、「デリスキング=リスク低減」への移行を目指すという。では、デリスキングが何を意味するかというと、米国単独ではなく、世界全体の中国依存を低下させる戦略だ。
エタンをレバレッジとして活用
これを踏まえた上で、ラトニック氏のCNBCインタビュー内容を振り返ると、米国の本音が浮かび上がる。中国に対する主な発言のポイントは、以下の通り。

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