情報機関が提供できる「最高のサービス」とは?
Foresight World Watcher's 4 Tips
こんなこと上から言われたらたまらないと思う読者も多いはず。イスラエルによるイラン攻撃に米国も連携するかが焦点だった6月17日、トゥルシ・ギャバード国家情報長官が以前に「イランの核兵器開発は停止している」と議会証言したことについて問われたドナルド・トランプ大統領は、「彼女が何を言おうと気にしない」と切り捨てました。
これに続いたのは「 I think they were very close to having a weapon(イランは武器を持つのに非常に近いと思う)」。米国全17の情報機関を統括し、情報の調整と大統領への報告を行う国家情報長官の認識よりも、自身の諜報認識を優先させた格好です。
都合のよい情報しか入らず大局を見誤るのは、権威主義的な指導者が陥りがちな落とし穴です。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にはウクライナへの本格侵攻を短期間で完了できると誤算したとされますが、米国の方も危ういのでは……そんな認識が伝わってくる論考が、二大国際関係・外交政策専門誌フォーリン・アフェアーズ(FA)とフォーリン・ポリシー(FP)に並びました。
6月初頭にウクライナがロシア領深部に行った大規模ドローン攻撃「クモの巣作戦」でも、情報機関は重要な役割を果たしたと見られます。国際政治にインテリジェンスが与える影響にも、改めて注目したいところです。
トランプ政権でドルの地位低下が起きると見るケネス・ロゴフ米ハーバード大学教授は、「2期目のトランプは、ニクソン時代のマクロ経済問題の多くを再現しそうな勢いだ」とFP誌で述べています。70年代のニクソンショック後、アメリカ経済に何が起きたかは改めて確認しておく必要がありそうです。
他には米民主党若手議員による民主党経済政策の見直し論。フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事4本を、皆様もよろしければご一緒に。
rump Is Breaking American Intelligence【David V. Gioe, Michael V. Hayden/Foreign Affairs/7月2日付】
The Perils of Denigrating U.S. Intelligence【Brett M. Holmgren/Foreign Policy/7月3日付】
「プーチンは、ウクライナが速やかに降伏するだろうという揺るぎない信念を持っていたが、これは四半世紀にわたる政権在任中、最大の諜報活動の失敗だった。プーチンは侵攻が思い描いたように展開しなかったことに激怒し、治安当局の高官たちに責任をなすりつけ、逮捕までした」
「しかし、プーチンの陥った罠は彼自らが仕掛けたものだ。多くの権威主義者がそうであるように、彼は部下が自分の聞きたいことしか言わないような状況を醸成してしまったのだ。インテリジェンスは、その最良の形において、政治指導者に正しい質問をし、自分たちの前提に異議を唱え、何が間違っているのかを考えるよう促すものである。[略]情報機関が提供できる最高のサービスとは、政治指導者が強く抱いている誤った考えの実行を思いとどまらせることだ」
「米国は世界が羨む情報機関を保有している。しかし、ドナルド・トランプ大統領のもとでは、権威主義政権が諜報活動に失敗しやすいのと同じ病理のいくつかが、米国のシステムを同様に脆弱にしている。彼のポピュリスト的で個人主義的なスタイルは、インテリジェンスの価値を軽視し、それを生み出す機関を乱用することにつながっている」
これらは、FA誌サイトに7月2日付で掲載された「アメリカのインテリジェンスを壊しているトランプ」の一節だ。興味深いことに、ほぼ同様の危機感を示す論考がFP誌にも翌3日付で登場した。「米国のインテリジェンスを侮辱することの害悪」だ。

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