国際論壇レビュー
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ソーシャルメディアが生みだす「公共圏」と民主化ドミノ

会田弘継
執筆者:会田弘継 2011年2月17日
カテゴリ: IT・メディア 国際
エリア: 中東

 こんな大歓声は聞いたことがない。声を限りに叫ぶ10万もの人々。まるで耳をつんざくようだ。いつまでも終わらない。
 2月11日夜。カイロのタハリール(解放)広場。約30年にわたり独裁を続けてきたエジプトのムバラク大統領が、圧政からの解放を求める市民の大規模デモの圧力の前に辞任した。市民の大歓声が夜空に響き渡った。 【画像 Tahrir Sq reacts to resignation】
 2000キロ西のチュニジアでは、約23年にわたり独裁を続けたベンアリ大統領が、やはり自由を求める市民デモに圧倒され、1月14日にサウジアラビアへと亡命。独裁に終止符を打った政変は、チュニジアの国花の名をとり「ジャスミン革命」と呼ばれた。

米保守系メディアが示した強い警戒感

 それから1カ月もたたずに起きた「アラブの盟主」エジプトでの市民革命。反政府デモはさらに、イラン、イエメン、バーレーン、リビアへと波及している。中東でいったい何が起きているのか。これは、1989年の「ベルリンの壁崩壊」と、その後に続いた東欧革命に匹敵する出来事なのか。かつてブッシュ米大統領が中東に引き起こそうとした「民主化ドミノ」が始まったのか。
 それとも、始まりは市民革命のように見えながら、イスラム革命へと変じていった79年のイラン革命の道をたどる可能性をはらんでいるのか――。
 エジプトには中東最大のイスラム主義組織ムスリム同胞団があり、最大野党となっている。民衆デモに遅ればせながら参加し、ムバラク政権との交渉に加わった。同胞団ガザ支部として誕生したのがイスラム原理主義組織ハマスである。テロ集団アルカイダも遠縁ながら、つながっている。なにやら物騒だ。
 チュニジアに続きエジプトで、ムバラク大統領辞任を求める大抗議デモが始まると、エジプトの最大の支援国である米国では、保守系メディアを中心に強い警戒感が表れた。
 レーガン政権で国防総省高官を務めた保守派論客フランク・ギャフニーは、ムバラクの即刻辞任を迫ったオバマ大統領は同胞団の味方となってエジプトにイラン型の神権政治をもたらそうとしていると非難した。 【Friend of Shariah, The Washington Times, Feb.7】
 これは反オバマ色の強い保守派の批判だが、進歩的な「ワシントン・ポスト」のリベラル派コラムニスト、リチャード・コーエンも「民主化したエジプトは必ず悪夢を生む」と強い警戒感を示した。エジプトには「民主主義に必要な市民組織や政治組織がない……次に現れる政権はイスラム主義者によってつくられる公算が大きい」と言い、イスラエルとの平和条約も廃棄されかねず、エジプトばかりか中東全体が混迷の瀬戸際に来ている、と懸念を隠さない。 【A democratic Egypt or a state of hate?, The Washington Post, Feb.1】

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執筆者プロフィール
会田弘継
会田弘継 青山学院大学地球社会共生学部教授、共同通信客員論説委員。1951年生れ。東京外国語大学英米科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。2015年4月より現職。著書に本誌連載をまとめた『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮選書)、『戦争を始めるのは誰か』(講談社現代新書)、訳書にフランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』(講談社)などがある。
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