セルビア新大統領は「戦犯」の元腹心

佐藤伸行
執筆者:佐藤伸行 2012年5月24日
エリア: ヨーロッパ

 去る5月16日、ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷でボスニア・ヘルツェゴビナのモスレム人大量虐殺の罪に問われた大物被告の裁判が始まった。1995年のスレブレニツァ虐殺を差配したセルビア人武装勢力司令官ラトコ・ムラジッチ被告(70)だ。

 旧ユーゴ内戦時、よく肥満していた体躯は痩身に変わり、面貌もさすがに老いを感じさせているとはいえ、「バルカンの虐殺者」と呼ばれたムラジッチは今なお悔悟の念とは無縁なようだった。傍聴席の女性遺族が中指を立てて激しい憎しみをたたきつけたのを目にしたムラジッチは、嘲笑うかのように、喉を切り裂く仕草を見せ、女性を侮辱したのだった。

 シニシズムの権化のようなムラジッチの初公判の模様が、酸鼻を極めたバルカン民族紛争の陰惨な記憶を甦らせてから程なく、今度は「バルカンの亡霊」と言ってもいい古色蒼然たる政治家がスポットライトを浴びた。5月20日、セルビア大統領選決選投票でトミスラブ・ニコリッチ・セルビア進歩党党首(60)が、3選を目指した与党・民主党党首のボリス・タディッチ大統領(54)を破って当選する大番狂わせを演じたのだ。

 ニコリッチは今でこそ、親欧州連合(EU)派を自任するようになっているとはいえ、素性を正せば、バルカン紛争の主要な動因である「大セルビア主義」を鼓吹したセルビア急進党の創設メンバーの1人にほかならない。

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執筆者プロフィール
佐藤伸行
佐藤伸行 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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