クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

平和国家はつらいよ

 ジュネーブ郊外、某富豪の元別荘に10日間ほど泊めてもらったことがある。その屋敷の客室で原稿を書いた。

 富豪の名を言えば皆さん御存じのはずだが、今ここに書く話には無関係なので名を略す。当時、家の居住者は中年のスペイン人銀行家で、英語を流暢に話し、私は彼の客だった。

 元の建て主である米富豪は、丸い形が好きだったらしい。丸い暖炉を真ん中にした丸く広い客間があり、食堂やキッチンも丸く、レンジや調理台も丸かった。私が泊った客間も丸く、広いガラス戸を開けて庭に出ると、庭の先はレマン湖だった。湖の向こうに、ローザンヌに通じる自動車道路が見渡せた。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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