中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(29)

イギリス兵拘束と解放でイランが見せた宣伝戦

池内恵
執筆者:池内恵 2007年5月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ 中東

 三月二十三日に、ペルシャ湾のシャットル・アラブ川河口付近のイラク・イラン国境海域付近で英海軍の兵士十五人がイランの革命防衛隊に拘束された事件は、四月四日にアフマディネジャード大統領が記者会見で解放を告げ、全員が四月五日にイギリスに帰還したことで終結した。 一連の動きはメディアで大々的に報じられ、この時期の中東情勢をめぐる話題の中心の座を占めた。この事件が突発的な事件を発端にした、もっぱらメディア上のプロパガンダ合戦としての表層的な意味をのみ持つものなのか、あるいは双方に深い背景があるのかははっきりしない。 全般的にいえば、イランの思いのままに語らされる被拘束兵の映像を世界に配信されたイギリスは大いに屈辱を受け、威信に傷を負った(皮肉なイギリス人なら「まだ威信が残っていたのであれば」と付け加えるだろうが)。しかし政府として表向きは謝罪や交換条件を出すことなく早期に兵士の解放を得た点を取れば、水面下での外交能力が勝っていた、あるいはイランが調子のいい「火遊び」を止めざるを得ないような圧力を背後でかけ得た、という憶測も成り立たないわけではない。 イランの巧みなプロパガンダ戦略は群を抜いていた。少なくともイラン国民と、近隣の反米意識の強いアラブ諸国にはイランは威信を示すことが十二分にできたと思われる。ただし同じことが欧米の一般世論にとっては、手に負えない「ならず者国家」としての印象をいっそう強めさせる結果にもなっている。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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