中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(37)

見えてきたブッシュの「遺産形成」の方向性

池内恵
執筆者:池内恵 2008年1月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東 北米

 この先一年の米国の中東政策の方向を決定づけると思われる文書が、十二月三日に発表された。「イラン――核の意図と能力」と題されたイランの核開発疑惑をめぐる国家情報評価(NIE)である。NIEとは、米国の十六の情報・諜報機関(インテリジェンス・コミュニティ)のデータと分析を総合して判断を下すものである。「イラン――核の意図と能力」では、確度の異なる「枢要な判断」を七つ列挙しているが、その第一番(判断A)で、「われわれは高い確信をもって、二〇〇三年の秋にイラン政府は核兵器開発プログラムを停止したと判断する」と結論づけている。 これは、イランの核兵器開発の「意図」を確信し、「能力」についても確たる証拠が得られるとの予想の元に、イラン攻撃を視野に入れた強い圧力政策を推進してきたチェイニー副大統領を中心とするブッシュ政権内の勢力にとって、大きな打撃となった。 十二月五日付の米紙ニューヨーク・タイムズ社説(Good and Bad News about Iran)がいうように、この判断は「ブッシュ大統領がイランとの戦争に踏み切る口実は、絶対的に、ない、ということを意味する」からである。 これは〇五年五月のインテリジェンス・コミュニティが発表した報告書の判断とは大きく異なっている。〇五年報告書では、「高い確信」をもって「イランが現在核兵器開発を決意している」と判断していた。能力については分析や意見が分かれたとしても、少なくとも「意図」は〇五年現在明確に存在する、という判断だった。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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