80時間世界一周 (47)

鎖国ミャンマーをめぐる救援・支援の“駆け引き”

執筆者:竹田いさみ 2008年7月号
エリア: アジア

 ヤンゴン川のフェリー乗り場で朝夕の通勤風景をぼんやりと眺めるのが、ミャンマーの旧首都ヤンゴンを訪問した時の楽しみのひとつである。朝のラッシュ時には、市内の商業地区に対岸の町々から通勤客を運ぶフェリーボートが接岸し、弁当持参で仕事場へ向かう人々であふれかえる。ここに佇んでいると、ビルマ人の生活の匂いを感じ取ることができる。 このフェリーターミナルの正面には、英国植民地時代の象徴である名門ストランドホテルが聳える。中へ足を一歩踏み入れると、フェリー乗り場の喧騒が嘘のように静寂な別世界が広がる。一階にはバーラウンジがあり、ノスタルジアを求めて欧米からやって来た観光客がバーを占拠している。ビールを注文すると、地元のダゴン・ビール、マンダレー・ビール、欧州系スコールの三種類が登場する。さすがに米国のバドワイザーは見当たらない。ミャンマーをこっぴどく批判している米国は、ビールといえどもお断りというわけだ。だがこの国のことだから、チップを弾めば、秘密の冷蔵庫からこっそりとバドワイザーが出てくるかもしれない。

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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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