ヤンゴン川のフェリー乗り場で朝夕の通勤風景をぼんやりと眺めるのが、ミャンマーの旧首都ヤンゴンを訪問した時の楽しみのひとつである。朝のラッシュ時には、市内の商業地区に対岸の町々から通勤客を運ぶフェリーボートが接岸し、弁当持参で仕事場へ向かう人々であふれかえる。ここに佇んでいると、ビルマ人の生活の匂いを感じ取ることができる。 このフェリーターミナルの正面には、英国植民地時代の象徴である名門ストランドホテルが聳える。中へ足を一歩踏み入れると、フェリー乗り場の喧騒が嘘のように静寂な別世界が広がる。一階にはバーラウンジがあり、ノスタルジアを求めて欧米からやって来た観光客がバーを占拠している。ビールを注文すると、地元のダゴン・ビール、マンダレー・ビール、欧州系スコールの三種類が登場する。さすがに米国のバドワイザーは見当たらない。ミャンマーをこっぴどく批判している米国は、ビールといえどもお断りというわけだ。だがこの国のことだから、チップを弾めば、秘密の冷蔵庫からこっそりとバドワイザーが出てくるかもしれない。
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