トランプのホワイトハウス奪還戦略:徹底的に早く動き続ける

執筆者:前嶋和弘 2023年4月28日
エリア: 北米
より扇動的な「トランプ劇場」はさらに続いていく(C)AFP=時事
 
米大統領選に向けた共和党の指名争いは、不倫の口止め料支払いに関する不正会計疑惑などで起訴されたドナルド・トランプ前大統領がかえって勢いづき、リードを広げている。真っ先に出馬宣言し、自らの正統性をアピールするトランプのホワイトハウス奪還戦略を解説する。

 ドナルド・トランプ前大統領が出馬宣言をした昨年11月から既に半年近くたった。最近の共和党支持者の支持率も盤石で、ここまでのホワイトハウス奪還のシナリオはトランプが思い描いていた通りのようにも見える。だが、そこに死角はないのか。トランプの狙いと今後の選挙戦を展望する。

史上最速レベルの出馬宣言

 トランプには類まれな才能がある。

 それは、どう行動すれば自分の支持者が反応するか、誰よりも分かっていることである。過去2回の大統領選挙での各種データを参照しているかもしれないが、トランプが優れているのは、何といってもテレビタレントとして研ぎ澄まされた世論に対する皮膚感覚だ。

「皮膚感覚」と書いたが、実はそこにはかなりの合理性がある。

 今回の再選のためのトランプのシナリオを見るとその合理性が見えてくる。

 トランプの再選シナリオとは「徹底的に早く動き続ける」ことに尽きる。

 最初に動くことで、常に注目される。そして、注目を集めれば支持率アップにつながる。

 それだけではない。支持率アップは、アメリカの場合、立候補前なら自分の政治団体への献金増に、立候補後なら自分の選挙の献金増としてそれぞれ直接、跳ね返ってくる。その資金を、遊説の費用やテレビやオンライン広告に投ずることでさらに支持を高めることができる仕組みだ。

 徹底的に注目されるという行動原理は、好循環を生み出す。これこそが、トランプ再選のための鍵となるため、常に注目を集める必要がある。

「早く動く」象徴だったのが、超早期のトランプの大統領選挙出馬宣言だった。出馬宣言は予備選開始の1年以上、本選挙の2年も前の昨年11月15日の段階で行われた。ただ、実際には本人はもっと早く出馬を目指しており、昨年の初夏の段階で既に立候補表明をにおわせていた。ただ、昨年11月8日の中間選挙に向けて戦っていた共和党の候補者への献金を奪うことになってしまうため、選挙が終わる前まで待った形だ。

 いずれにしろ、2大政党の有力な候補でこれほど早い段階での出馬表明は少なくとも近年はない。異例の早さでの出馬宣言は「史上最速」レベルだ。

トランプ独走の共和党指名候補レース

 異例の早期出馬もあって、トランプはいまのところ、共和党のライバルたちを大きくリードしている。

 政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」(4月27日時点)がまとめた3月29日から4月24日までに発表された9種の各種世論調査の平均値によると……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
前嶋和弘(まえしまかずひろ) 上智大学教授 静岡県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。専門は現代アメリカ政治外交。アメリカ学会会長。主な著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022)、『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan (co-edited, Palgrave, 2017)など。
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